ビンさん

光復のビンさんのレビュー・感想・評価

光復(2021年製作の映画)
4.0
シネマート心斎橋にて鑑賞。

ヒロインの圭子(宮澤美保)は長野のとある町で、認知症の母(クランシー京子)と二人暮らし。
東京で働いていたが、父の介護のために二十代後半に長野に戻り、父亡き後、続いて母の介護の日々で疲労困憊である。時に母に癇癪を起こすこともあるが、それでも肉親ゆえ、母に寄り添う圭子だった。

ある日、母が徘徊した件をきっかけに、圭子は高校時代に付き合っていた賢治(永栄正顕)と再会する。
妻子ある賢治だったが、圭子の生活を察し、彼女をあれこれ助けるうちに、二人は深い仲になっていく。
恋愛などとうに忘却の彼方に置き去りにした圭子にとって、賢治との時間は生きていく上でのささやかな糧であった。

が、思わぬ事件が圭子にふりかかり、ドミノ倒しの如く、彼女を不幸が襲うのだった。

深川栄洋監督が、実生活のパートナーである宮澤美保さんを主演に据えて、自主映画というスタイルで撮った本作、昨年東京で公開されるやその反響はあれこれ伝わってきており、観たい作品の一つだったが、いよいよ大阪での上映が始まった2月10日の初日に、矢も盾もたまらず観に行った。

観終わって正直、直ぐに言葉にできぬ衝撃だった。
噂に違わぬ、というか想像を遥か上をゆく作品だった。

ただ、素直な感想を書けば、いったい監督はこの作品で何を言いたかったのか理解できなかった。

痴呆症の老人の介護にまつわる諸問題、たとえば行政は介護で大変な毎日を送る者に、どういう支援ができるのか、もしくは十分にできていないということを訴えたかったのか。
その件で全編引っ張っていくのかと思いきや、また別の問題提起が。

弱者に対する世間のあまりの不甲斐なさを訴えたかったのか、とにかくヒロイン圭子に次々起こる負の連鎖はいったい何を意味しているのか、あまりに衝撃過ぎて思考が吹っ飛んでしまうほどである。

と思うと同時に、本作は一見社会派ドラマのように見えて、じつは究極のサディスティック映画(そんな言葉があるか否かはともかく)ではないかとも思った。
あまりにも圭子を襲う不幸の連鎖は、不謹慎かもしれないが、一歩間違えればブラックなコメディのようにも見える。
僕は本作を観て、山野一の「四丁目の夕日」のテイストを感じた。

また、これはクライマックスに関わるので詳細は書かないし、僕の大きな勘違いかもしれないが、至極まっとうな説教を垂れる人物のその言動と行動の乖離に呆気に取られたわけだが、あの一連の下りは、僕が愛してやまぬ、某東映の某カルト映画を深川監督はやってみたかったのかな、なんて思ったりした。

とにかく、ここまで徹底的にヒロインをいたぶっていたぶっていたぶりまくるような映画、そりゃあ監督のパートナーじゃなきゃ受けないだろうし、監督のことを信じて理解されているだろうからこそ、作ることができた映画なのではないか。
ということをつらつら考えると、描かれている内容は理解し難いのに、何故か感動して胸を熱くしている自分がいる。

それこそ、理解し難きことである。
そんな奇妙な感覚に陥らせてしまった本作のなんと罪深きことよ。

観終わってコンセッションにてパンフレットを購入すると、なんと監督と宮澤美保さんのサイン入である。
明後日、来阪されての舞台挨拶も拝見する予定(なにしろ何度も書くが、一度観ただけでは理解不能なので)であり、その際は、パンフに追いサインしていただけるのだろうか?(笑)

最後に、『北風アウトサイダー』の崔哲浩さんの名前をクレジットで発見し、え? どの役だったんだろう、と思いきや、圭子の弟役だった。
これは追い光復の際に、よく観ておかなければいけないな。
ビンさん

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