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The Oak(英題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

The Oak(英題)(1992年製作の映画)
3.8
【ルーマニア、ネラの奇妙な冒険】
ルーマニア映画史の重要人物ルチアン・ピンティリエの代表作『Balanța(The Oak)』を観ました。本作は、カイエ・デュ・シネマの年間ベストにも選出された作品です。これがとても奇妙な作品でした。

水浸しの集合住宅の舐めるようにして建物に侵入する。父と娘がホームビデオを観る。それはサイレント映画のようで、クリスマスを祝っているかに見える。少女に銃が渡ると、それをもって虐殺が始まる。銃声は聞こえない。荘厳な音の中で、ただ殺戮が繰り返されていく。強烈な冒頭から始まると、父は死ぬ。廃墟同然のボロアパートでネラは精神を崩壊させていく。やがて父を火葬し、自分探しの旅に出る彼女は数奇な冒険へと誘われていく。

『Terminus Paradis』もそうだが、ルチアン・ピンティリエの作品は突然ジャンルが変わる傾向があるようだ。 本作では、父の喪失で精神が蝕まれていく女性の話かと思いきや、いきなり青春ロードムービーへと変わり、密集する列車の中、人を押し分けて窓から呼吸をしようとする過酷な旅は、バックパッカーの冒険を彷彿とさせる。その手のジャンルだと安心していると、いきなり周囲が火の海の戦場になったりする。

日常と非日常が曖昧に混ざり合い、混沌を広げていく様子は、まさしくルーマニア社会の混乱を象徴していると言える。最初に観たルチアン・ピンティリエ映画としてはかなり飲み込みづらいものがあるものの、次々と予測不能な展開を巻き起こしていく様子に興味深いものがありました。
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