KnightsofOdessa

The Oak(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Oak(英題)(1992年製作の映画)
4.5
[ルーマニア、セクリターテと不条理の波状攻撃] 90点

大傑作。ルチアン・ピンティリエ長編五作目。チャウシェスク政権崩壊後に亡命先のフランスから故郷に戻ってきたピンティリエが最初に製作した作品。冒頭、主人公ネラは荒れ果てた家の中で父親をと二人、ベッドに寝そべりながら昔の映像を観ている。それはネラが幼い頃、セクリターテの一員だった父親に連れられて参加した政府要人たちのクリスマスパーティの映像で、そこで少女ネラは王女様のように振る舞っている。サンタコスをしたおじさんの白髭を剥ぎ取り、プレゼントを全て拒否し、渡された銃で虐殺の寸劇を楽しんでいるのだ。やがて、寝落ちしたネラの横で父親は亡くなった。そこから始まるのは混乱の旅路だった。ネスカフェの空き瓶に遺灰を詰め込んで、父親の後を継いでセクリターテとなっていた姉の猛追を躱して電車に乗ると、いきなり電車は壊れ、彼女をずぶ濡れにしたにも関わらず乗員には賄賂を要求され、空き地では鉱夫に襲われ、警察に嫌味を言われ、炊き出しの人にも嫌味を言われ、不条理が波状攻撃してくるように、どこに進んでも事件に巻き込まれる。終いには、パトカーのフロントガラスにおじさんが突っ込んできたり、砲撃の話をしていたら実際に砲撃されたり、もはやナンセンス劇のようにすらなっていく。しかし、残念ながら現実なのだ。

ネラは病院で賄賂を受け取らずセクリターテと正面から衝突する医師ミティカと出会い、もう一人の自分に出会ったかのように惹かれ合っていく。すると、物語はネラからミティカに軸足を変え、捨て身の覚悟で反抗する彼と、様々な場所から無限に湧いてくるセクリターテとの戦いに焦点を当て始める。そして、ネラの旅と同様に、ミティカの戦いも馬鹿馬鹿しいのだ。地方の男たちは都会に出てセクリターテになって互いを監視し合って、しかも彼らを束ねる人物たちは皆、戦争の英雄を語る詐欺師であって…
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