くまちゃん

劇場版 TIGER & BUNNY The Beginningのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

TVアニメの1話&2話を中心に再構築する事で、アニメ未視聴の新規ファンにも設定や世界観を理解しやすくし、さらにオリジナル要素を加えることで、アニメ視聴組の古参ファンも楽しめる内容になっている。

再編集やオリジナルカットやキャラを追加してしまうと、TVシリーズとの整合性が取りづらくなってしまいパラレルワールドのような扱いになることが多々ある。今作は2話と3話の間に発生した事件として新規エピソードを挿入し、さらに事件解決後のアニエスの言葉により3話へと繋がるように物語が進むため、矛盾が少ない。
細かく言えば、1話と2話を今作に置換する事も可能なため、どちらを見て3話以降の物語に突入しても問題がない。

冒頭虎徹のチャーハンから始まり、終盤でもチャーハンの場面がある。
チャーハンは一人暮らしの中年の持つ哀愁と、ヒーローの二重生活における日常場面を表している。
TVアニメでも要所要所に登場するある意味庶民的な虎徹を象徴するアイテムと言える。
さらに冒頭チャーハンではヒーローの呼び出し、終盤チャーハンでは娘との通話と二重生活を巧みに対比させているのも映画的。

人情に厚く、強い正義感と深い愛情を併せ持つが、視野が狭くミスが目立つ虎徹。
冷静沈着で頭の回転が早く、戦闘スタイルもスマートだが、自己中心的なバーナビー。
2人が持つポテンシャルはヒーロー向きだが、それを相殺してしまう欠点がある。
だからこそ補えるバディという形態が上手く生かされ、そこはTVアニメより顕著。
TV版では1クールを使って、虎徹が「おじさん」から「虎徹さん」になるまでのバーナビーとの関係性を丁寧に描いていた。
バーナビーに介入しすぎて信頼関係を結べない時も多かった。

だからこそクライマックスのバーナビーの言葉を受けた虎徹の判断は、2人の関係性を前進させる上で正しかった。

ただ見守る虎徹を斎藤がバーナビーに見せるというのは、少々靄が残る。

バーナビーの活躍の舞台裏での虎徹。
もう少し映画ならではの見せ方に工夫が欲しかった所ではある。
虎徹は自身が評価されることを望んではいない。評価されれば嬉しくはあるが、ヒーローの本質ではないからだ。
またバーナビーと異なりヒーローは身分を隠して市民を救うというステレオタイプな考えも持っている。
虎徹がバーナビーに見せ場を譲ったのは純粋な優しさであり、それを本人に悟られることを虎徹は望んでいない。
自身の悩みを一人で抱え込む性格上それは明らかだ。
その場面をどう見せるかによって、映画としてもう一段階格が上がったかも知れない。

シュテルンビルドの街並みや、細かいギミックなどは、近未来的でありながら、どこかレトロな雰囲気がありノスタルジックな親近感が沸く。
そういう意味でSF映画やファンタジー映画が苦手でも見やすいのではなかろうか。

ヒーローTVは警察24時に近い感覚だと思っていたが、よく考えると被害の大きさによって死傷者が出てもおかしくないNEXT犯罪において、常にカメラを回し、マリオが実況し、ヒーローの活躍にポイントを付与するのは不謹慎極まりない。
そこら辺は実写になると違和感が出てしまう部分かも…

スケート場での事件を解決後、虎徹の母安寿と娘の楓は虎徹とバーナビーを見つめていた。
安寿は息子の身を案ずる母として、楓は自身を救ってくれたバーナビーへの憧れを込めて。

エンドロールでは、犯人サイドの人間ドラマやバーナビーの過去等のTV版のカットが挿入され、記憶を補正してくれるのもありがたい。

UNISON SQUARE GARDENが歌う「リニアブルーを聴きながら」はココデオワルハズガなかった僕らに残されたものの答えを込めたもの。
ため息をかき消し他者との正義とぶつかりながらも、諦めずに突き進む。
まさに今作のテーマに合致し、オジサンヒーローの悲哀をスタイリッシュに歌い上げて、ラストを綺麗に彩っている。
くまちゃん

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