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ちひろさんのayのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
3.0
Filmarks試写会にて鑑賞。
原作コミックは未読。
上映前の舞台挨拶で、有村架純さんが、自分の演技がちひろさんに近づくことができたのか、今でも正解がわからないっていう主旨の発言をされてたと思う。口が悪くて掴みどころのないちひろさんのキャラ設定は、丁寧にことばを選んで地に足のついた印象の彼女とは、確かにギャップを感じるのだけれど、この人ならきっと話を聞いてくれると思わされるような分け隔てなさや親近感は共通していて、彼女が主演だからみてみようと思った作品。
 
ずれた自分に自覚的で、後ろめたさをどこか感じながら、社会の周辺でしか生きられない人が集う港町。思いのほか静かで、哀しいところもあるストーリーだった。

今泉監督には、現状肯定の人、というイメージがある。この映画も幸せを人と比べないことがテーマのひとつにあって、人との関わりのなかで線引きするとかされるとかホント疲れちゃったなっていう人には沁みて、今どき、必要とされる作品なんだろうなーと感じた。
口にしづらいささいなことが積み重なって、日ごろ溜まったあれこれが、今泉作品のセリフのなかには理屈っぽくなく余計な言い訳もなく落とし込まれてて、日常の本音を代弁してくれるから"リアル"。
 
ちひろさんも、人の話を聞くときに、常識を押しつけてきたり、強引なアドバイスをしてこない。大きくいってしまえば、それは、他人が自分と違うことをどれだけ許せるかという話にもつながってくる姿勢なのかなと思う。

「愛がなんだ」と同じコンビの脚本で、そこにも興味があった。「愛がなんだ」では、愛か恋か何なのかわからないままの関係をテンポよくたたみかける脚本に感心。狭い仲でおたがいがおたがいの鏡となってて、それぞれ似通ったうまくいかなさがあって、誰も気持ちが成就しない。
「ちひろさん」は、1対1のシーンが多くて、あえてゆっくり喋ることを意識して、現実よりむしろ遅くなるようテンポをコントロールされてるのかなという体感があった。

Netflix製作で予算をかけた商業映画だと、いつもならインディっぽい味っていえる今泉監督の映像表現の面でのつくりこみの弱さが目立ってしまうよな、とは正直感じた。
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