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ちひろさんのsoraのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
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以前、ある作家がインタビューで語っていた
「作家とは自分の人生における経験を切り売りする職業だ」
作家でなくとも、本サイトにおいても自身の経験を赤裸々にたっぷりと落とし込んでいるレビューをたまに見かける
もちろん私は作家になりたいわけではないし、素人レビューの書き方に良し悪しもなく各人の思うやり方でいいのだろうけど、分厚い鎧を身に着けておきたい私は不特定多数の人々に対しあけすけに自分の経験の多くをさらけ出すことを望まない

本作主人公であるちひろは一般的に考えれば隠したいであろう過去をさらりと口にする
そのくせ冷静に相手の反応を伺っていたり、自分は違う星からきたなどと自己を妙に特別視したりもする
ホームレスを自宅にあげ身体を洗ってあげるという、優しさの一言で片付けられない危機意識の欠如した愚かな行為に走ることもある

初対面から距離を詰めていく彼女は他者との距離間の取り方がわからないのかもしれない
それは屈託なく自分を飾らず自然体かつ等身大であるというより、全身で「誰か私を見て!」と耳目を集め助けを求めているかのようだ
そんなふうに他者を求め親しげに距離を詰める彼女だが、反面、ここから先には絶対に入れさせないという頑強な精神的境界線を張っているあたり、他者を信じ必要としたにも関わらずそれが叶わなかった経験から過剰に自己防衛の姿勢に入っている様子が伺われ、私はそれをしんどいと感じた

また自分を大事にできない彼女がホームレスや小鳥の死体を埋める作業に機械的に没頭していたときのその表情からは、他者の死に対する悼みは感じられなかった
放置することもできたのにそうしなかったのは優しさからではなく、この世から消えてなくなってしまっても悲しむ人もいないだろうと思われる命の終焉を淡々と受けとめ、この世に存在しなかったに等しい形で抹消しようとしたに過ぎなかったからではないだろうか
いつか訪れる自身の死を想定して…

まあ、母親に鬱屈とした感情を抱き続けているにも関わらず攻撃的になるわけでもなく、ある一定ラインまでは他者を受け入れる寛容さを持っているちひろの達観した人物像はある意味魅力的で、応援したくなる面も確かにあった

で、結局のところ、リリーは最高ーーーっ!
あのボソボソと穏やかで単発的に喋る様子、たぶん全人類の中で一番好きな喋り方、だな笑
そのシーンだけで十分楽しめた
それでよし!
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