キャッチ30

ちひろさんのキャッチ30のレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
3.8
 人は寂しさや孤独を感じる時、誰かに縋るかそのままで良いんだと受け容れるかのどちらだろう。今作の場合は後者に近い。

 主人公のちひろさんは元風俗嬢で現在は海辺の小さな町の「のこのこ弁当」という弁当屋で働いている。ちひろさんはマイペースでよく喋る。それでいて誰かに寄り添う姿勢を崩さない。常連客だけでなく、ホームレスや野良猫にも暖かく接する。そんなちひろさんの下に様々な人達が集う。家庭に居場所がない女子高生オカジ。母親と二人暮らしで鍵っ子の小学生マコト。引きこもりで漫画好きのべっちん。男に逃げられたちひろさんの旧友バジル。ちひろが勤務して風俗店の元店長・内海。

 彼らはそれぞれ孤独を抱えているがちひろさんも例外ではない。背中には刺し傷があり、弟からの電話で母親の死を知らされても葬式にはでないと言ったことから親子関係が断絶されているのが見えてくる。魚が水の底で眠るように心が沈んでいる時もある。そんなちひろさんが心を寄せるのは「のこのこ弁当」の主人の妻で盲目の多恵だ。

 今泉力哉監督は生きづらさを抱えている人々に光を当てる。月並みな言い方になるかもしれないが、今作は一種の清涼剤だ。