花火

ナナメのろうかの花火のネタバレレビュー・内容・結末

ナナメのろうか(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

幼い頃に祖父母の家に泊まりに行ったときの、普段自分が住んでいる家と違う時間を経験した住宅に入り込んだときの好奇心や怖れの感覚が蘇るよう。スタンダードの画面に廊下の一端側に据えられたカメラが写し出す奥行きのある構図。食器を包む新聞紙のバリバリした音。風に揺れるカーテン。互いに吹き付け合うシャボン玉。底の抜けたダンボールから抜け落ちた玩具が階段を落ちてゆく洪水。まるで映画の原初の喜びに満ちたような画面と音響の彩り。それが頂点に達するのは姉が家の外周四辺を走り回るシークエンスで、彼女の疾走は走行方向の反対側に置かれたカメラによって後ろ姿だけが4つのポジションのフィックス画面繋ぎで描かれていく。ドタドタした走りも相まって、まるでサイレント期の映画のような画面が展開される。一方でじゃあ懐古趣味なのかと言われると断じてそうではなく。姉妹それぞれの結婚や妊娠をめぐるやり取りよって提示される生き方の葛藤で、きちんと現代の映画として成立している。そうして断絶しかかった二人が、庭にいる姉が2階の妹に向けて投げ入れた光るボールの運動によって、文字通り"繋がる"カットの連鎖が震えるほどに感動的。奥までよく見えたあの廊下はいつの間に先の見渡せない暗闇に染まったのだろう。画面を賑わせていたレースカーテンはいつの間にあれほど恐ろしげなどす黒さに変化したのだろう。
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