半兵衛

肉体の半兵衛のレビュー・感想・評価

肉体(1932年製作の映画)
3.8
骨子はすれ違う男女のメロドラマだけれど、アクション演出の数々が素晴らしすぎて最後まで楽しめてしまう。主人公のレスラーポラカイによる試合シーンは臨場感があるし、殴られる→相手を殴り返す一連の流れはタイミングもスピードも完璧。何より劇中一番の暴力を直接見せず、主人公の顔とそれを見るヒロインの驚いた表情でその凄絶さを体感する演出は古びていない。

シリアスなドラマの最中に下手なコントよりも楽しい仲間や主人公が働く酒場でのコミカルなやりとりが挟まれる構成が巧みで最後まで飽きずに楽しめる。家の廊下にいるポラカイが別の部屋にいるヒロインに愛を告白する普通ならシリアスになる場面で、あえて別の登場人物を一人ずつ出して主人公の雰囲気をぶち壊す演出に爆笑。

ヒロインの様々な嘘を無条件で信じて、彼女と情夫との間に子供も自分の子供と思わせられ、終いには八百長試合までさせられるポラカイが不憫で見ていられない。ヒロインの情夫であり兄と偽っている男の、スタイリッシュな服装と洗練された台詞まわしの中にあるゲスすぎる行動が観客を不快にさせ、ポラカイに一層共感していく。

あとドイツからアメリカと様々な舞台へ移る大作並のドラマを重要な場面を敢えてはしょって96分にまとめる演出が凄い。例えば情夫が刑務所を出るシーンは通常なら刑務所を出すところを一切画面に出さず出たあと家に来る情夫とヒロインのやりとりで済ましてしまうし、八百長試合をすることの苦悩を酒はビールしか飲まなかった主人公がウイスキーをイッキ飲みする様子一つで主人公の葛藤を体現する。こういう演出の上手さはさすがフォード。

二人が和解するラストはさすがに古くさいけれど、金網越しのやりとりは少し泣かせる。

あとドイツ人にちゃんとドイツ語で会話させたり、純粋なドイツ人をいじめるアメリカ人という構図からアメリカの内面を暴く演出が新鮮。
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