シズヲ

ディーバ デジタルリマスター版のシズヲのレビュー・感想・評価

3.7
“歌姫”のファンである郵便配達員が巻き込まれる事件。ヌーヴェル・ヴァーグ以降は目立った潮流が途絶えていたフランス映画界に新たな息吹をもたらした金字塔的作品。原作はミステリー小説らしいけど、どうやらジャン=ジャック・ベネックス監督の独創性が多分に盛り込まれているみたい。

フランス映画的な芸術的感性を踏まえつつも、話の筋書きなどの骨子は寧ろハリウッドのノワール映画のような味わいがある。二本のテープというギミックを軸にしたストーリーラインに加えて、謎の組織に命を狙われてる主人公という構図はサスペンス的。中盤にはバイクを駆使した派手なチェイスがある他、事の真相が暴かれて以降はスリリングな駆け引きが繰り広げられたりと、要素だけ抜き取れば純粋な娯楽作めいてる。何故か主人公よりも格段にファインプレー決めてる謎の味方キャラが妙に味わい深い。彼の相方として出てくるベトナム人の少女もキュートで好き。

芸術性と娯楽性を結合した内容はどっち付かず感があってそこまで乗り切れた訳ではないけど、それでも作中で幾度となく描かれる画面の美しさは印象深い。廃車やアートに囲まれた主人公のガレージ、非現実的な内装と照明で飾られたゴロディッシュの自宅など、屋内の美術が序盤から鮮烈。主人公ジュールが歌姫とパリの街をデートする静謐な場面や海辺の隠れ家を捉えたカットなどは筆舌に尽くし難い。そんな本作の骨子として描写される“歌姫”の存在(そして彼女が歌うソプラノの歌唱)がこの映画のムードを決定づけている。

熱狂的な愛情ゆえに歌姫のコンサートを無断で録音し、また彼女のドレスを密かに盗んだりする主人公の人物造形はサブカル的で印象に残る。60~70年代の諸作で見られる“内向的な若者”や往年のオタク的人物像などに近い趣を感じつつ、そんな主人公を軸にノワール的な話が展開されるのでなんだか面白い。それはそうと「恋心じゃない」と弁明した直後に盗んだ衣装を黒人の娼婦に着せてる童貞的ストーカーっぷりにしみじみみする。
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