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ファミリアのmoonのネタバレレビュー・内容・結末

ファミリア(2023年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

予告も観て、あらすじも知った上で、観た。
想像以上に重いドラマだった。

けれど、人間同士が繋がる事への賛歌のようなシーンは感動したし魅力的だった。


プロローグから、職人としての誠治のルーティンが描かれ陶芸一筋で生きて来た男の飾らない姿に惹かれる。車もボロボロ。

誠治は 孤児院育ちで、親としての手本もない中 一人息子を片親で立派に育て上げてた。

息子が、本当に良く出来た人間で、ナディア(妻)を見初めた理由も素晴らしい。親を戦乱の中殺され、苦しみの中に居ながら前向きで笑顔でいるところ(強さかな)に惹かれたという。叔父も叔母も 誠治の息子の結婚を祝すシーンが温かい。愛の溢れた家族という感じ。

ブラジル人青年マルコスを助け、車を壊されても笑って、動けばいいさとテープで補修して乗ってるとこでも、誠治と学の懐の大きさや温かさが伝わってホッコリする。

実在するブラジル人の居住する団地が舞台になっているとのこと。予告で観た幾何学模様?は何だろうと思っていたら、彼らのアパートを上から撮ったモノだった。何か意味があるのか?分からないけど、面白い構図だと思った。

ブラジル人の野外パーティに呼ばれて行く気になったのも、学が居たからだろう…
外国人だからとか偏見持たない息子。誠治だって元々 そういう人だったろうけど、機会がなかった。関わってみれば、みんな同じ人間で、繋がれる!!一緒に踊る姿 楽しそう。

でも、マルコス達には厳しい現実が…!

在日ブラジル人の問題を描くのに…半グレ達との揉め事を焦点にするのは 如何なものか?と疑問を持った。作者の身の回りで起きた現実の事件?をモデルにしているとの事だったけど…

私の町にもかつて大勢のブラジル人が働いて居て、彼ら専用のマンションアパートも有った。でも、リーマンショックの煽りで一気にアパートの駐車場から車が消え、しばらくブラジル人や他の外国人の姿は見られ無くなった…今 少しづつ戻り始めてるけど。

確かに日本の産業も斜陽化して来て、外国人労働者の賃金も低く、生活は苦しいだろう…
そういう事だけ描いても 映画としての盛り上がりが少ない?からなのか?
執拗な半グレ達のブラジル人への容赦無き暴行シーンには …ウンザリした。

しかも、MIYAVI演じる榎本の理由が
浜辺でパーティして酔っ払ったブラジル人に妻子を殺されたから、その犯人を追ってブラジルまで行ったら、既に死んでて、恨みが晴らせないから…全てのブラジル人が憎くて…という。全くの私恨。これも愛しい家族を思っての事と言いたいのかもしれないが、何の正当性も、榎本への同情も見いだせない。
それに こういう描き方…ブラジル人に失礼じゃない?
彼らがパーティ好きなのはお馴染み。事故とパーティは別物。ちょっとモヤモヤ。

とにかく、誠治と学、ナディア、親族、友人、マルコス、エリカ達の交流シーンは穏やかで心が癒されるのだけど…半グレ達の暴力シーンがその余韻を吹っ飛ばしてしまう。観ててイライラした。殺人まで起こしてしまうし…やり過ぎ!ここまで描く必要ある?



私が一番 感動したのは
この映画の予告にもある 学の あの言葉が発せられるシーン

「父さん、俺、父親になるんだ!話す言葉も育った環境も違うのにさ、俺たち家族になるんだよ」

「見て!美しいだろう!戦争が有ったなんて信じられない」

プラントの上から、誠治に向けての言わずには居られない感動を記録する学。ほとばしる喜びが伝わって来て…学の人生の賛歌に涙が込み上げた!

自分に子どもが出来た喜びを跳ねて回って表現してた学。どれだけ嬉しかったんだろう!愛しかっただろう!…

でも…それを誠治が知った時は…もう…
切な過ぎた!

「ファミリア」のメインテーマは まさに学が発した言葉であろう。
だったら、
ナディアと帰国して新しい生命と家族になって、誠治と学が 一緒に生きて行くという世界線でそれを描くことで良かったのではないのか?

何故、あそこでテロの犠牲者となる必然性が有ったのだろう…
何を訴えたい?

誠治が学を助けようと必死に奔走する姿は心打たれたけれど…

この物語の中で…学は誠治に何を残したのだろう? 誰とでも、心が繋がれば家族になれるという事なのか…

マルコスが父に似てる誠治を慕い、そんなマルコスを救う為に死をも厭わずに榎本に刺される役を買って出た誠治。それは、実の息子にしてやれなかった無念さからなのか?
それにしても、誠治の計略?を許した幼なじみの刑事…う〜ン。危険過ぎるのに?

無事、榎本は逮捕され、マルコスやエリカに希望の光が見えて来る。そして、マルコスは誠治の仕事を手伝う…

誠治はマルコス、エリカ達と新しい「家族」の形を築いて行くのだろう…という結末。

それはそれで素敵な事だけど…

予告で学が死ぬだろう事は予想出来た。
でも、見終わった時、何故 死なせなければならなかったのか大いに疑問だった。

何だろう…誠治がマルコス達と家族になる為に、誠治が彼らを息子夫婦の代わりに…より親密な繋がりを持たせるために…死なせた(消した)ような気がした。つまり、捨て駒的な?血の繋がりの無い人間達の「ファミリア」を描くための…
*追記*
《他の方のレビューで、誠治に「わかるよ」と榎本に対して言わせる為に学が死ぬ必要性が有った…との考察を読み…やはり捨て駒的な役割か…と感じる》


学とナディアとの幸せな未来を観たかった。生きて帰って欲しかった。


という訳で、点数は低め。
テーマ自体は素晴らしい、
そして、役者達も素敵で、音楽も映像も良かったけど。

半グレやテロを描いた為に焦点がズレてしまったような…残念感。




役所広司さん…親としての在り方が分からないと言いながら、常に優しく温かく家族や周囲の人々を見守って来た職人気質な誠治を リアルに演じていらした。流石。

ブラジル人の演技未経験という若者達も、自然体で、だからこそ 存在がリアリティ有って惹き込まれた。エリカを演じた ワケドファジレさんは日本語も上手くキュートな雰囲気で、これから期待したい。ただし、nudeにさせられたのは酷いと思った。ナディア役のアリまらい果さんはまだ20歳?との事だけど、ドンと構えた貫禄が有って、不思議な魅力あり。

脇を支えた方々もそれぞれ良かった。誠治の義兄夫妻…あのご夫婦が居たから学は優しい男に育ったんだろう…と思えた。室井さん久しぶりに見たけど、やっぱり良い役者さんだなあ…中原さんも慈愛に満ちていて良かった。
ただ、半グレのリーダー役のMIYAVIさん。実は本当に心優しい子煩悩な方らしいのに、榎本役はキツかった😓見た目?(失礼しました)でキャスティングされたのかな?
この榎本役は ちょっと違和感有った。


そして、吉沢亮さん!
この映画は 今ひとつ おすすめ出来ないけれど、吉沢亮さんの演技は とても良かった!ご本人も言ってらしたが、大河でふっくらした体型だった為、リアルなアラサー感が出ていて、本当に何処かに居そうな好青年役を初めて観た気がする。台詞の発声もいつもと違って溌剌としていたのも、新鮮だった!改めて声が良いなと思った。

他者に向ける優しさや あの素晴らしい台詞(喜びと高揚感に満ちてた!)も はしゃぐ姿も 学という人間性を非常に魅力的に表現していたと思う。感動した!
轆轤姿も見れた!!拙い(笑)?英語も聞けた!現代劇で夫婦姿も見れた!

ファンとしては演技的には大満足だったけど、やはり、幸せな結末であって欲しかった。



何故、この役 吉沢亮さんだったのだろう…(微かな疑問😅)
好青年役は新鮮ではあったけど、この役は まぁ、普通に演技出来る人なら誰でも出来そう。
吉沢さんの本領はマルコスや榎本みたいな屈折した人物の役のような気がするから…
*追記*
《後に監督さんがキャスティングについて語っている動画を見たが、「若手の中で珍しく色が着いてない感じがする役者で、難民の奥さんを連れて来ても自然に感じられる(人に対して平等性を感じさせる)役者だから…」との事。それならば納得。》


* ポスターが今のに変わる前の
役所広司さん(誠治)の未来を見据えるような表情のアップのポスターの方が良かった。あの いぶし銀のような 温かく包み込むような表情が素敵だったのに…
何故 変えたんだろう?

以前のポスターのように ドッシリと誠治自身の物語を丁寧に描いていたら…*
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