じゅ

ファミリアのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ファミリア(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

俺かて生きてりゃいろいろ直面することもあるもんで、まあさすがに孤児の難民で周りの人が死にまくるのを見てきた過去もテロリストとか半グレとの間で命が絡むいざこざがあったこともないけど、それでも父と子のこととか重なって見えるような描写があって沁みる。こうして涙もろくなってくんかな。

ちなみに半グレは新興の組織的犯罪集団のこと。暴力団なんかとはまた別の組織。言葉を聞いたことがある程度で、なんとなくまあしょーもねえ連中なんだろなあとは思ってたけど、この度初めて意味ググった。一応日本語なのに日本人の俺が知らんくてブラジル人のマルコスは知ってたから...。まあそれだけ平穏に生きてこられたってことだな。

てか役所広司の若い頃やばいやつだった役のしっくり感なに。『すばらしき世界』の影響か。さすがにチンピラの身体の一部を笑顔で食いちぎってたりはしてなかったけど、榎本の手下の指を1本ずつ折ってくのはシビれた。あの赤髪のちんちん振り回して歩いてますみたいな彼。
ナイフ腹受けからの榎本ホールドかっけえじゃん。マルコスとかが受けた暴力の痛みを自らもくらって現行犯で押さえさせるとは。そんでよく生きてたな誠治さん。


陶器職人の神谷誠治の元へ息子の学が帰ってきた。学は大手企業双葉プラントシステムに務めてアルジェリアでのプラント建設に携わる傍ら、現地で出会ったナディアとの結婚を決めていた。学は現在建設を進めているプラントができ次第会社を辞めて誠治と焼物をやると言う。ナディアも学や誠治の故郷で家族をつくろうと学に話していた。誠治は焼物では食っていけないことを身をもって知っており、学の考えには反対だった。
マルコスは榎本海斗が率いる半グレに目をつけられていた。幼馴染のマノエルが榎本の風俗店から金を盗み、その逃走を助けたためだった。マノエルの逃走を助けて自身も逃げた際、偶然にも神谷家に助けられたことがきっかけで家族ぐるみの知り合いになった。
学とナディアがアルジェリアへ仕事に戻った後、学はナディアから妊娠していることを告げられた。しかしその直後、建設中のプラントにテロリストが押し入り、学やナディアら職員が人質に取られた。犯行の目的について憶測が飛び交う中、身代金という説を聞いた誠治は亡き妻の兄夫婦の協力を得て2000万円を用意する。外務省へ直談判に向かうも、テロリストとの交渉はしないという原則のため身代金交渉は受け入れられなかった。しばらく後、学とナディアは遺体となり帰国した。アルジェリア軍の突入の際、人質の避難に尽力して銃撃戦に巻き込まれたとのことだった。
マルコスと幼馴染のエリカにも危機が迫っていた。マノエルが消され、幼馴染のルイも殺され、復讐に向かったマルコスは逆にリンチされて集中治療室へ送られた。誠治は同級生の警官の駒田隆に相談するも、ルイは事故死、マルコスの件は正当防衛で処理されるため榎本の逮捕には至れないとのこと。そこで誠治は隆に頼んで一策を講じる。誠治は榎本の手下の1人を締め上げてルイ殺しの真相を吐かせて録音し、録音データと引き換えにマルコスとエリカにこれ以上手を出さぬよう榎本に頼みに行った。誠治が榎本に腹を刺されたところで外で待機していた警察が踏み込み、手下諸共榎本は現行犯で逮捕された。
1ヶ月後、杖をつきながらも退院して帰宅した誠治の元へ、マルコスとエリカが姿を見せる。焼物を教えてほしいとのことだった。3人は釜の整備に取り掛かった。


まじでいろいろあったけど、なんやかんや一番沁みたのは家業を気にかける息子と家業に見切りをつけてる父親の構図。俺の地元すぎる。橋の上に軽トラを停めて見た、誠治の知人の潰れた工房とか、廃業した下請け工場とか。周りに焼物やってる人はいなかったけど、工房とか工場を田んぼとか畑に置き換えると途端にしんどくなる。
まあ少なくとも俺は北アフリカに行ってテロに巻き込まれる心配はないが。

稼ぎの面では家業のより遥かにいい仕事をしてても、それでも途切れさせるのってどこか怖い。あと淋しい。感覚の話、現代で想像する仕事って家庭とは切り離されたものだけど、家業って神谷家に工房と釜があるみたいに家庭と仕事が密接に結びついてて、仕事の方がなくなることって家庭がなくなることと等価に思える。言い換えると、帰る場所がなくなる感覚。
かといって学みたいにスパッと今の仕事辞めて実家に帰る決心とかつけれない。「ちょっとくらい食えなくても一生懸命やれば」とか思えない。金ほしい。すげえよ学。


「話す言葉も育った環境も違うのに俺たち家族になるんだ」って、学がナディアから妊娠を告げられて喜びに舞い上がったときに動画を撮って言ってた言葉があった。不幸にも最期の言葉になってしまったが。
本作を象徴する台詞だったのかな。学とナディアが家族になることで始まって、誠治とマルコスとエリカが家族っぽい絆を認め合うことで終わるかんじ。
話す言葉も育った環境も違ってたけど、マルコスとエリカはさすが5歳から日本にいただけあって今や日本語びびるほど上手いし、それに同様の傷を負った。過去は違えど現在で共通するものがあればそれでいいのかもしれん。そんなこと思わせる台詞とかなかったけど。

共通するものといえば、そういえばマルコスと榎本にも特定の人種というか国の人を嫌う共通点があった。マルコスは父がリーマンショックの煽りで日本の企業に首を切られて自殺したことで日本人を嫌悪していて、榎本は飲酒運転のブラジル人に妻と娘を轢き殺されたことからブラジル人を憎悪していた。何が2人の行末を分けたんだろう。
2人が仲良くできなかったのかみたいな話じゃない。あいにく憎しみの対象同士だし、特に榎本がいるような犯罪集団なんて元々他人を排斥する村みたいな場所だろうからファミリアどころかお友達になることすら無理だろうと思う。行末を分けたってつまり、マルコスは日本人との間に絆が芽生えた一方で、榎本はブラジル人を憎んだまま終わったこと。
まあ本人だけじゃどうにもできないことだったんだろうな。マルコスは誠治や学と出会えた。榎本は誰とも出会えなかった。ちなみに誠治は誠治で中学生の頃は手のつけようのないどうしようもないやつらしかったけど、妻と出会ってまともになったそう。それがなかったら榎本みたいなことになってたかもしれん。そういう奇跡的な出会いがあったかなかったかの違いだったのかも。でそういう奇跡的な出会いがあった先で彼らはファミリアになってる。タイトル回収。


なんというかまあ、世界ってすごいね。
じゅ

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