みかぽん

ソウル・オブ・ワインのみかぽんのレビュー・感想・評価

ソウル・オブ・ワイン(2019年製作の映画)
3.8
枯れた枝を刈り、馬を引いて土地を耕し、新芽を剪定して日当たりよく整え、たわわに実った葡萄を収穫する。
例え戦争や飢饉があったとしても、おそらく何千年と繰り返された日々なのだろう。そして熟れたぶどうに腰まで浸かり、素足で踏みつけその発酵を助ける作業を目にした時に、初めて〝ぶどうが形を変えてお酒になる〟事を知った驚きを思い出した。

あれはクリスマスの前だったと思う。コタツを囲んで洋画劇場を観ていた我が一家。その映画「ユリシーズ」の中には、神に献上する酒作りとして葡萄を踏み、葡萄酒なるものが出来上がるエピソードが描かれていた。ときは紀元前、腰巻きだけのほぼ裸の髭もじゃ男たちが、まるで踊るように葡萄を踏む。その姿を食い入るように観る我々一家。それが私とワインの出会いであって、これにユリシーズがセットで記憶された思い出だ。

翌日、母親はいそいそと買い物に出かけ、サントリーの赤玉ポートワインを持ち帰った。なにせ当時の庶民はワイン=葡萄酒であって、銘柄は赤玉ポートワインの一択、いや、当然、世の中には本物?のワインはあったのだろうが、田舎町の酒屋にはなんちゃってシロップの前述がイコールでワインであり、それは恭しくも母たちを別世界へ誘う夢の飲み物だったのだろう😌(そして我々子供たちは、母のそうしたウキウキを見逃さなかった😆)。
前夜に映画を観た興奮が冷めやらないまま、好奇心一杯に、飲んでみたい、とせがむ私たちを母は可哀想に思ったのか、瓶の中の赤い液体をキャップに少しだけ注ぎ(母はその辺が子供っぽい、と父に叱られる所以なのだけど😅)「お父さんには内緒」と口に含ませてくれたこと。当然、それは子供にとっては美味しいものではなく、その微妙な表情に思わず母が吹き出した思い出が重なって、これが約半世紀昔のワインとうちの家族の物語。

そんなわけで、前振りにもならない長々しいエピソードをお詫びしつつ、中世画にあるような景色が今も淡々と、しかし脈々と続くワイン歴史の奥深さ、携わる人々の使命感と揺るぎない専門性に只々圧倒されるドキュメンタリー❣️

(としても…。ボキャブラリーを失ったまま、と言うか多分、美味しさとしては評価にならないワインであったと思うのだけど、その歴史的価値と存在(=1945年のジョルジュ・ルーミエ)に平れ伏して興奮するばかりの日本人二人の、この世界の新参者としての門外漢っぽさが、、何と言うか、「隠し砦の三悪人」の凸凹農夫、あるいはC3POとR2D2みたいな扱いにされてあまりに気の毒過ぎで、それが製作者側の無意識の悪意にも思え、何だかちょっと残酷だったなぁ😥)
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