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パリタクシーのカポERRORのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.4
Merveilleux!(素晴らしい!)
Merveilleux!!(素晴らしい!!)
Merveilleux!!!(素晴らしい!!!)

あぁ、私としたことが、危うくこんな素晴らしい作品を、スルーするところだった。
もし今年、私が『BLUE GIANT』に出会っていなければ、本作『パリタクシー』が、2023年日本公開作のマイベストだったであろう。(あと1ヶ月残ってはいるが。)
とにかく、ストーリー・設定・キャスト・演技・音楽・舞台・演出・構成…全てが愛おしくて愛おしくてたまらないのだ。
U-NEXTの48時間レンタルで3回リピート鑑賞したが、全く満ち足りないので、『BLUE GIANT』同様、DVDを手に入れねばなるまい。
「サンタさん!今年一年いい子にしていた私に『パリタクシー』のDVDを下さいませ!~カポより~」
今日はその魅力を、熱い想いを込めて綴りたいと思う。(若干暑苦しいかもしれない。)
今回ばかりは最初に言っておこう…本作未見の方は、レンタルしてでも必ずや御視聴頂きたい。

✤✤✤

① Le jazz!/ジャズ!ジャズ!ジャズ!
ダイナ・ワシントンの「This Bitter Earth」が流れるシーン。
画面には秀逸な和訳が映し出され、92歳のマドレーヌが隣に座る若かりし頃の自分の手を握りしめる…。
私の中ではもはやこの時点で”勝ち確”なのである。
【This Bitter Earth】
♩このほろ苦い地球(ほし)で
 どんな果実が実るというの?
 愛は何のためにあるの?
 誰も与えてくれないのに
 私の一生が地上の塵にすぎないなら
 バラの輝きを曇らせるだけ
 私は何のために生まれたの?
 それを知るのは神様だけ… ♩
この曲が長編映画作品に使われたのは『シャッターアイランド』のエンドロール以来ではなかろうか。
本作では作品の中盤、挿入曲として流れるのだが、マドレーヌの辛い経験を投影する写し鏡のようなその歌詞が、最高に味わい深い演出となって作品を輝かせている。
他にも、同じくダイナ・ワシントンの「On The Sunny Side of The Street」や、エタ・ジェイムズの「At Last」が、マドレーヌとシャルル、二人の心の交流や甘酸っぱい思い出を華やかに彩っていた。
本作、音楽を手がけたのは、フィリップ・ロンビ。
彼は、フランソワ・オゾン監督作品『危険なプロット』『婚約者の友人』で、セザール賞にノミネートされたことで知られる。
今年は『BLUE GIANT』といい、本作といい、私の大好きなJAZZが素敵な作品達の中で堪能できて、この上なく幸せだ。

② Femme mature!/熟女!熟女!熟女!
リーヌ・ルノー演じる92歳のマドレーヌが、とにかく素晴らしい!
演技しかり、笑顔しかり、気丈さしかり、艶っぽさしかり…熟女フリークの私は終始画面に釘付けだった。
特に彼女の演技が光る名場面を列挙しよう。
【↓↓ 以下ネタバレあり!注意!】
・(シャルルが妻カリーヌとの出会いを
 語るシーンでマドレーヌが呟く…)
 「写真と言えば、これも運命ね…」
 …正に最高の表情である。
 言わずもがな、息子マチューを思い
 出しての、遠い眼差しと微笑み。
・(信号無視で警官に呼び止められる
 シーンでマドレーヌがシャルルに…)
 「ねえシャルル、席を外して頂戴、
 "いい子"だからお願い」
 …この時から既に〖孫に語り掛ける
 演技〗仕掛けてやがった!
 抜け目ない。
 ちなみに、マドレーヌは、タクシーの
 中で女性警官に事の次第を説明し
 ながら、何か”書類”を見せている。
 この時点で彼女の"心臓病"が演技では
 なく、真実であることを見抜くべき
 だった。
 伏線が秀逸。
・(シャルルに旦那とはどうなったかと
 聞かれて…)
 「(マチューとのお別れの会に)
 その場に来てた、ちゃっかり写真に
 収まりに。その姿を見て全てを中止
 したの。今度は私が非公開にして
 やったわ。」
 …本作のフックとも言える”写真”を
 使った嫌味と、裁判所での陪審員なし
 非公開裁判にかけたこれまた痛烈な
 嫌味とで、ゲス夫への侮蔑を全力で
 表現。
・(ディナーの席で…)
 「あなたはいつか旅立つ、
 私には分かる。」
 …日々の生活に困窮するシャルルに
 対し、この台詞である。
 マドレーヌはもうこの時、シャルルに
 自分の全ての財産を差し出すことを
 決めていたのだと思う。
 ”ほろ苦く辛い人生”と”目の前の死”に
 向き合う余命幾許もない自分に、
 最高の一日と最高の旅を与えてくれた
 この心優しいタクシー運転手へ
 ありったけの感謝を込めて。
いやはや、脱帽である。
そして、彼女をより一層輝かせたのは、シャルルを演じたダニー・ブーンの名演に他ならない。
序盤の刺々しい言動や雰囲気から、終盤の愛情深い表情や所作への変化が非常に旨い!
圧巻の二人の演技に心から拍手を贈りたい。

③Paris!/パリ!パリ!パリ!
パリが美しい街並みだとは言え、主演は92歳のレジェンドシャンソン歌手で、パリの市街地は渋滞だらけなのである。
タクシーでの珍道中の撮影など、普通に考えたら到底困難だ。
そこで本作では画期的な撮影方法が取り入れられ話題となった。
これは、言葉で説明するのが難儀なので、是非以下YouTube動画をご覧頂きたい。
わずか1分ちょっとの動画なので、ご安心を。
https://youtu.be/Brcwb2PnVWs?si=aE8T-bAl6dVmpyoS

✤✤✤

最後に本作中で縁(ゆかり)のある”数字”について、気になったのでちょっと調べてみた。
ここに、書き残しておこう。
◆溶接トーチ温度について
 1955年当時、フランスの溶接工が使う
 ガス溶接は、恐らくアセチレン等の
 燃料ガスと酸素との混合気体を燃焼
 させ,その高温によって金属の溶接を
 行う方法だったと思われる。
 トーチの火炎温度は約3000℃。
 →思わず股間を押さえた。
  シャウエッセン丸焦げである。
  (私の愚息はポークビッツなので、
   スポット溶接でOK。)
◆目的地までの距離
 Googleマップによると、ブリ=シュル
 =マルヌからクルブヴォワまでの距離は
 35km。
 車だと約35分で到着してしまう。
 →そりゃ、老人ホームの職員もキレる
  わけだ。
◆小切手の金額
 2021年当時、101万ユーロは日本円で
 1億313万円である。
 →途方もない遠回りをしているのは
  確かだが、最短距離で換算すると、
  ざっくり、295万円/kmのタクシー
  料金である。
  ちょっとパリで転職してくる!

笑いあり涙ありの傑作『パリタクシー』は、現在U-NEXT、RakutenTV、DMM TV、TELASAで配信中。
 
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