ミッキン

パリタクシーのミッキンのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.2
10年ほど前。似たような話を書いたことがある。とあるコンテストに応募し佳作的な賞を頂いた。タクシー運転手と乗客の奇妙な縁。我ながらよく描けたと思う。作品化されなかったのが残念でならない。
閑話休題。
本作を褒めるポイントは3つ。
まずはタクシーという設定を活かしたロケーションの広がり。
この映画が撮影される少し前にパリを訪れているので街並みや景色には見覚えがある。
首都の割に思いのほかコンパクトなので3日もあれば見て回れた。真空パックが弾けたようにあの時の空気感が蘇ってくる。
そして映像が美しい。色彩も、カメラワークも、クレジットも、全部が自分好み。
2つ目は音楽。
劇中に流れる「At Last」、「This Bitter Earth」、「On The Sunny Side of The Street」が物語とマッチして実に染みる。
そしてなんと言っても92歳、リーヌ・ルノーの芳醇な演技。後部座席に座って過去を時に楽しく、時に切なく語るその表情や声色。シャルルでなくてもつい聞き入ってしまうよね。
そのシャルルを演じるダニー・ブーンもまた最初と最後で印象がまるで違った。無愛想で何だかつまらなそうな男が途中でマドレーヌに心を開き、やがて自分語りを始める。そこからはいい人オーラ出まくり。生理現象を催したマドレーヌのために狭い路地のチャイニーズレストランのトイレを借り、店の中でじっと待つ。その間、道を塞がれた後続車からはクラクションと罵詈雑言の嵐。それでも彼は笑顔を見せる。もちろん観てる側も味方だ。うるせえ、少しくらい待ってろ、と。
マドレーヌに食事を奢り、挙句の果てにはタクシー代すら貰わない。後日、彼の抱えていた問題が明らかになる。もう生活が破綻寸前まで来ていたのだ。
もちろん俺も薄々感じていた。なのに何故長距離の運賃を貰わなかったのだ、と物語にのめり込む。
そして結びつくのだ。車中の自分語りエピソードと今後の目的地が。
写真。息子のマシューとも結びつくラストシーンに思わず目が潤んだ。
ハッピーエンドとは呼べないけれど、善意は必ず報われる。家族3人肩寄せあって咽び泣く様に、こっちも何かを頂いた気がした。

10年前に書いた自分の作品とは真逆のエンディングでもあった。