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彼岸花 ニューデジタルリマスターのT0Tのレビュー・感想・評価

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2023.3.15 21-26

おもしろい。親子の権力勾配を、トリックと同盟でうまくやりくりして子どもの願望を叶えていく。

 この映画の会話は、規範とゲームで成り立っている。小津安二郎の代名詞の会話シーンのショット切り返しは、静謐なものというより、むしろ規範的なゲームにおけるやり取りのように思う。
 例えば、「責任」や「心配」「会社なんかよろしい」と言った言葉はそれ自体に固有の意味があるというより意味を変えながらさまざまな会話の間を浮遊し反復する。田中絹代にはその言葉の矛盾をつかれる。その時佐分利信の返答は支離滅裂になる。むしろそれ自体にあまり意味を持たない返事の方が重要。「いいじゃないか」という返事は自由に決断する子に対するしょうがないという仕方で肯定するプラクティカルな親の態度を示す。
 だからこそ、トリックと同盟によって節子の結婚話は進んでいく。そのやり取りこの上にそれぞれの思いが浮かび上がってくる。
とはいっても、そこまで二項が対立する「ゲーム」ではない。様々な歯車が絡み合いつつ、部分的に駆け引きがある。会話は規範によって回転する歯車の運動でありながら、その運動のなかに微小な駆け引きがある。それがトリックであり、そのトリックのよって家族からズレた同盟が築かれる。その意味で、単に家族愛や荘厳な静謐さではない、家族や結婚といった儀式・儀礼的なものに対する冷静なまなざしが小津安二郎にはあるように思う。

田中絹代、山本富士子が良い。駆け引きが上手い役は観ていて楽しい。
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