幽斎

グッドナイト、マミーの幽斎のレビュー・感想・評価

グッドナイト、マミー(2022年製作の映画)
3.8
恒例のシリーズ時系列
1972年 4.0 The Other 「悪を呼ぶ少年」オリジナルの元ネタ
2014年 4.4 Ich seh, ich seh オーストリア映画、オリジナル
2022年 3.8 Goodnight Mommy 本作、リメイク

オーストリア版はサイコ・スリラーとして高い評価を得たが、アウトプットは基本的に本作も同種。着想は非凡で展開と映像美は秀逸、プロットは森に囲まれた一軒家に住む双子の兄弟、母親の帰りを待つが顔は包帯で巻かれ、性格まで冷たくなり別人の如く様変わり。兄弟は母親の正体を暴くべく・・・AmazonPrimeVideoで鑑賞。

オーストリア版がアメリカで高評価を得た事で、ハリウッドのリメイク権も高騰。監督と脚本を兼務したVeronika Franz一世一代の大出世だが、上手く売り抜けたなぁ(笑)。本作では製作総指揮に留め、中身に一切口を出してない。ユニバーサルとの落札に勝利したAmazonスタジオだが、例に依って下請けAnimal Kingdom制作。主演女優のスケジュールが空くのを待つ為、当初よりも一年遅れで配信スタート。

有名なトリヴィアだが、Veronika Franzの脚本にもオリジナルが存在する。「アラバマ物語」名匠Robert Mulligan監督の1972年制作「悪を呼ぶ少年」。俳優で小説家のTom Tryonが書いた「もう1人の子」が原作。シッチェス映画祭で最優秀監督賞を受賞した此の作品から、シチュエーションを借用。オーストリア版こそハリウッドのスピンオフと言える、そして本作はリメイク。プロットが秀逸だと如何に時代を経ても人は魅了される証。オーストリア版が好きな方には、是非オリジナルも観て欲しい。何と言っても音楽が私のベストワンJerry Goldsmithなので。

Naomi Watts 54歳、日本人に愛され易いルックスで人気だが、私が最初に彼女を観たのは「マルホランド・ドライブ」。「21グラム」繊細な演技も良かったし、日本人なら「リング」主演でも有名。シドニーのコンテストで知り合ったNicole Kidmanは無二の親友、レビュー済「ウルフ・アワー」の様に役を譲り合う関係。Amazonスタジオは当初から彼女を念頭に製作を進めたが、アカデミー未冠の彼女に吉報が届く日は何時なのか?。

【ネタバレ】オーストリア版を未見の方は見ないで下さい、知らないよ(笑)【閲覧注意!】

私はリメイクには気乗りしなかったが、Wattsの抜擢は適格だと思うが、アマゾンが主導する作品は主演だけは配信回数を稼ぐ為に大物を起用するが、基本的にハリウッドから四面楚歌、著名な監督は誰も引き受けない。Matt Sobel監督?誰だよって感じで、北米で配信がスタートした直後から、Wattsのパフォーマンスは素晴らしいが、監督の演出は「Watered down remake」。脚本は「Another toothless American Remake」散々な云われ様。

理由は明白で劇場公開作品ならオーストリア版の残酷描写も、如何なくハリウッドらしい視覚効果が期待できるが、配信作品(16+)グロ描写に制約が有り、禍々しさを表現するのは元から無理が有る。脚本を担当したKyle Warrenも、お前誰だよ?レベルだが、コンセプトは同じでもマザーVS双子ではなく、マザーVSエリアスに創り変えてしまった。肝心なマザーの正体にもミスリードを多用せず、親子の過去にクローズアップが摩り替えられた。印象的だった部屋の「蟻」壁紙も使われてない。

「初見でも分かり易い様に創りました!」言い訳しそうだが、スリラーから刺々しさを無くせば、牛すじの無いおでんの様な存在感しか残らない。製作陣に詰問したいが、ルーカスを無視して、一方的にマザーが悪者だと展開すれば誰でも簡単にトリックは氷塊。クライマックスが狂気的なのも不自然、オーストリア版の様に双子の判別が出来ない様に同じ服を着せるとか、マザーがルーカスの存在を認識してる様に見せる。スリラーのギミックを自ら放棄するので、クライマックスのドンデン返しも猫パンチと大差ない。

「拷問」も亡かったかの様に素通りする。コレも配信作品の縛りの限界。縛って氷水を吹っ掛けるシーンが有ったが、アレが代用なのか?。その程度なら夫婦喧嘩でも有るんじゃない?、独身なので知らんけど(笑)。途中で劣化版だと気付いたのか、ラスト15分でオーストリア版と違う結末を用意した。が、観客は完全に置いてけ堀で全く共感できない。「猫」は死なずに済んだ。アレこと「ゴキブリ」も出て来ない、アレは助かった(笑)。

「悪を呼ぶ少年」消失トリックが主眼である事に対し、オーストリア版は母親が豹変した理由をプロットに据え、視点を子供から母親に移す事で、実は慈愛に満ちた物語に転換させた事が、スリラーとしても高く評価されたし、単なるリメイクで無い事も証明した。しかし、本作にはソレを超える理念が感じられないから、北米でも酷評される。Wattsは私の母親に近い年齢だが、ラストはWattsちゃんが不憫で(笑)。

Wattsの演じた母親に役名が無いのも一種の伏線。謎のトリガーが元女優と言う事で大方の伏線は綺麗に回収出来る。優しくて素敵なマザーは虚構の産物とか、奇妙な行動の理由が女性として本来の姿に立ち返った点は、スリラーらしい着地点。キーワードは「煙草」ですが、女優は現実の虚構と言うフェイマスとして投影。それが寝室と言う意味も是非考えて欲しい。

ハッピーエンドか、救いようの無いラストかは観客に委ねられるが、オリジナルもオーストリア版も本作も、視点を変えれば解釈も変化する点が秀逸。「毒」を抜かれ骨抜きに為って、スリラーとしては平均点だが、結末を知った上で2度見したくなる程、伏線は意外と丁寧に張られてる。夜中にマザーが電話したのは夫でも警察でも有りません。ヒントは作品に登場しない人物。私は「母親視点」の鑑賞を強くお薦めします。

Amazon得意の賛否両論。スリラーがコンプライアンスを意識すると、コウ成ります(笑)。
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