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近江商人、走る!のsomaddesignのレビュー・感想・評価

近江商人、走る!(2022年製作の映画)
3.5
幼くして両親を亡くした百姓の子・銀次。ひょんなことから大津の米問屋・大善屋で丁稚奉公することになった。人並外れた商才や着眼点の鋭さを発揮して、店の仕事ばかりか、町内の困りごとも解決していく。ある日、大善屋の主人が悪徳奉行の賄賂の誘いを断ってしまったがために目をつけられ、悪辣な罠で千両もの借金を背負わせれてしまう。店と仲間を救うため銀次は策を練る。

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香川県高松市に本社を構える独立系映画製作会社KCIの第二弾。2015年に設立されたばかりだけど、2022年は今作含めて2本も公開されてるので今後の公開作も楽しみにしたい。


予備知識ゼロで鑑賞。
「殿、利息でござる」「引越大名」みたいな史実を下敷きにした時代劇エンタメかと思ったら、おもくそフィクションに振り切ったオモシロ時代劇で面食らった。(お年寄りの観客がほとんどだったので、同じように面食らった方も多かったかもしれない)とんちで問題解決しつつ金儲けに邁進するエコノミックな一休さんみたいな話だった。


難しいところがなくて、一発逆転&勧善懲悪の分かりやすさがいい。登場人物の掘り下げとか、あれはコレの暗喩とか難しく考える事なくズンドコ見てりゃあいい。正月映画はこういうのでいい。たぶん予算規模は他の邦画に比べても大きくなさそうだけど、工夫とガッツで乗り切ってる感がビシバシして熱い。(熱さと面白さに比例してない問題も)

山場はジェシー・アイゼンバーグ主演の映画「ハミングバード・プロジェクト」でもあったような誰よりも早く先物価格を知ること。
とはいえ銀次のやり口がどうにも不正に思えてしまって、「いいんかこれ?」て疑問が湧いてノイズになっちゃった。不正を咎められた際も「いち早く相場の情報を知りたいのは当然のことだ!」って勢いで押し切ろうとしすぎ。もっと頓知か屁理屈で正当性を証明して欲しかった。結局大岡裁きで大団円になっちゃうのは最早コメディ。エクスマキナすぎて今まで見てたのはなんだったのか。


芸人さんをはじめカメオ出演が多くて、豪華やらノイジーやら。個人的にはYouTuberのでんがんさんが出てたのが面白かった。
キャスト陣の中で特に印象に残ったのは柏屋主人・平蔵を演じた矢柴俊博。普段ニコニコと物静かで温厚な役柄のイメージが多い分、今作での悪役っぷりのハマり方がすごい。全編アドリブ多めの演出の中で、あえてフリーにセリフを足す事なく、同じセリフを何度も繰り返すキャラ作り。一見、商才がなくても人柄が好かれそうな好人物の裏に、ドロドロとコンプレックスがたぎってる感がいい。言葉を尽くして怒れるほど器用な奴ですらなくて、「どーすんだ!?」ってバカイチに繰り返すしかない無能っぷり。劣等感の強さとここぞで無気力になっちゃうのが、息子に受け継がれちゃってるのが悲しい。蔵之介視点で見れば、劣等感に向き合い怨嫉を断ち切り、父を超える物語でもあるのか。


余談)
特別出演された方の中で、昨年急逝された渡辺裕之さんのたぶん最後のチョンマゲ姿も貴重。惜しい人を亡くした悲しさと、不意にスクリーンで拝見できた驚き&喜びでストーリーを追うの忘れてしまった。

03本目
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