幽斎

プー あくまのくまさんの幽斎のレビュー・感想・評価

プー あくまのくまさん(2023年製作の映画)
3.6
恒例のシリーズ時系列
1926年  Winnie-the-Pooh Alan Alexander Milne原作小説
1966年  Winnie the Pooh and the Honey Tree 初のディズニー短編映画
2018年  Christopher Robin 実写版「プーと大人になった僕」
2023年 3.6 Winnie-the-Pooh: Blood and Honey 本作
2024年? Winnie-The-Pooh: Blood and Honey 2 本気の続編
2025年? Bambi: The Reckoning「バンビ」ホラー、マジ?(笑)
2026年? Peter Pan's Neverland Nightmare「ピーターパン」ホラー、マジ?(笑)

Alan Alexander Milne略してA.A.ミルン。イギリスを代表する世界的児童文学作家が産み出した世界中から愛されるキャラクター「クマのプーさん」を殺人鬼に仕立てたアバンギャルド・スラッシャー。MOVIX京都で鑑賞。

私はアニメを子供の頃から馴染まない事も有り殆ど見ない。プーさんと触れたのもマクドのハッピーセットかな?(笑)。人が殺されるだけで謎解きもクソも無いスラッシャーを見ない私が本作を観た理由も、実はA.A.ミルンは推理小説作家でも有る。代表作「赤い館の秘密」日本では創元ミステリ文庫で古くから知られ、トリックは秀逸でも現実味に欠けると、大御所Raymond Chandlerがケチを付けた事で有名だが、哀愁漂う作風は「クマのプーさん」らしい仄々感、素人探偵のモデルが日本の金田一耕助と言うのも実に面白い。私は評価する一冊なのでお暇でしたら。

本作はPublic domainとCopyrightについて触れないと始まらない。「違法だよ!あげるくん」無断でコピーしたり公開できない「著作権」。私のレビューにも著作権は存在するがFilmarksにも掲載を差し止める権利は有る。アメリカの著作権は出版後95年、失効したモノをパブリックドメイン、本の世界では「公有」とも言う。青空文庫は有名だが「ローマの休日」もライセンス失効で格安DVDが存在。著作権とは別に尊厳を守る「知的財産権」は有るので、Agatha Christieの様に孫が財団を管理するケースも有る。

「クマのプーさん」発表は1926年。作者が没したのは1956年。問題は此処から。テディベアから着想を得たプーさんは詩集扱い。A.A.ミルンの推理小説は「四日間の不思議」等、10作品も出版社が管理。プーさんはディズニーがアニメーション化して世界的に知られるが、ライセンス契約で2021年末に失効。EUは没後70年で公開出来ない。中国は著作権無法地帯なのにプーさんは公開出来ない、何でだろうなぁ(笑)。

A.A.ミルンは金儲けじゃ無く「皆に観て貰えば良いんだ」心の広い人なので、あんな作品が書けただろうが著作権が失効してもクリスティの様に特許権、意匠権、商標権の知的財産権は有る、ディズニーも「クマのプーさん」商標権は維持。では、なぜ本作は創る事が可能か?。商標権だからディズニーのプーさんに「似てなきゃ」良いんです(笑)。製作費たったの10万$、撮影は僅か10日。しかし北米では「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」抜いて全米3位の快挙に大盛り上がり!。アメリカ、カナダ、イギリスだけで500万$以上売れたら調子こいてエンドロールで続編を告知、007かよ。更に「バンビ」「ピーターパン」権利失効作品も続々とシリーズ化も決定。

ディズニーからクレームが来ない様に慎重に気を使ってる節は感じた。プーさんを知らない人が見たら分らない?レベルのオマージュに留めてる。天下のディズニーに裁判で勝ったのはソニーぐらいなので気持ちは分る(笑)。大人に成ったクリストファー・ロビンが怪物化したプーさんに襲われるのはパロディの範囲内だが、「なぜプーさんは凶暴化したか」説明が一番ハジけた位で、後は原作とは関係ない人達が殺されるだけ。問題はレーティングPG-12なのに、結構グロい。お好きな方にはタマランだろうが、劇場で観た時は結構な数の女子中学生や高校生も居たが「犬鳴村」とはレベル違うけど大丈夫?(笑)。

公開前から批評家から「私達の思い出を奴らは壊そうとしてる」忠告なのか脅しなのか分らん事を公然と全米ネットワークでタレ流すので、彼らはビビッて一夜限定公開の筈が観客は押し寄せ「だがソレが良いんだ、最高だ!」一部で絶賛される、私の様なプーさんに思い入れの無い人間の頭の中には大きなクエスチョンしか残らないが、肝心の映画としてのクオリティはRotten Tomatoesから「史上最低評価の映画100」ランクインした事でも解るが、私には別の考察が有る。

本作を知ったのはUK版の予告編だが、ソレには衝撃の文字が!「itn distribution」。私はほゞ毎週3作品をレビュー、シネコン枠、ミニシアター枠、スカベンジャー枠。スカベンジャーは、アマプラ謎映画でもマシなアングラ作品を紹介してるが、最大の供給元がitn distribution。本来なら日本で劇場公開なんてしてはイケない会社。しかも、プロデューサーがイギリスを代表する地下映画の大御所Scott Jeffrey。つまりアマプラで0円で見れる筈のスカベンジャーを休日の土曜日の10時25分の中途半端な回に来て、チケット2000円を払って(ポイント還元で無料だけど)、市バス代を払って劇場の大スクリーンで見る価値が有るかと言えば、ハッキリ言って正気の沙汰では無い。だから本作が緊張感が薄いとか、演出が散漫なのは当然。予告編だけ見ると意外と良いので余計に腹が立つ(笑)。
www.youtube.com/watch?v=Ud-FBr74K8o 

私は結末が必ずハッピーエンドで終わる偽善映画のディズニーは嫌いなので、本作を必要以上に貶す理由は無い。アメリカの評価もディズニーに気を使って酷評の嵐だが、Rotten Tomatoesも批評家6%に対し視聴者53%と対象的なのが全てを物語る。itn では最高傑作と言って差し支えないクオリティ。続編は5倍の予算、と言っても50万ドルと超低予算に変わりないが、ティガーとかランピーとかオウルとか著作権が切れ次第、続々登場する予定。真面目に考察すれば出オチの一発ギャグで終わってるのは事実だが大人の背徳感、アンチカタルシスが観客を支えてると思う。ホラーとは「神経を逆撫でする」事が狙い。天下一品のこってりMAXの様に賛否両論、だから映画は面白い。

「13日の金曜日プーさん編」。はちみつはもう飽きたよ、よい子は見ちゃダメ!(笑)。
幽斎

幽斎