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ヴィーガンズ・ハムのKのレビュー・感想・評価

ヴィーガンズ・ハム(2021年製作の映画)
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8/3/2024 fri 14:25 Netflix

・この時代に対立を煽る作品を作る意義はあるのか。映画は時代を映す鏡だが、その意識はあるのか・自分たちの作品に時代を前進させる意識を持たせたか。

・最後に肉食主義側が惨い殺され方をされないとイーブンにならないぞ(しかし菜食主義側が手をかけたらそれはバックラッシュによってイーブンではなくなるため、他の殺害方法を取るしかない問題もある)、と鑑賞中ずっと評価を考えながら疑いつついたんだけど、肉食主義側の思考のくだらなさもコメディらしく充分トンチンカンではあったものの、やはりあまりにも菜食主義側の描き方に悪意がありすぎる。理解できない/しようともしていない、自分とは異なる選択を批判したいだけの作家の顔が映像の向こうにありありと見える。

冷笑主義に基づいて撮られた作品だということは織り込み済みでそう思う。冷笑的な作品は数年前の自分なら何も考えずに享受していただろう(過去の自分の無知による暴力性を許せないことが多々ある)。菜食主義を実践する人々を揶揄する描写を、当事者達が目にしたらどう感じるか、なんてことは一切考えられてないんだろうな。中東出身者を一概にテロリスト扱いする描写の映画が・クィアな人々が一概に精神異常者だとする映画が今存在していたら確実に批判の対象となるのに、菜食主義という尊重されるべきライフスタイルはあまりに気軽に見下されすぎている。暮らしに対して何も考えていない肉食主義者によって勝手に俎上に上げられてしまっている。当事者のいない場所で語られるトランスバッシングと同じだ。マジョリティがあぐらをかくなよ。

グロテスクにヴィーガンを殺していく幕引きまでにも悪意がある。結局最後に割を食うのは少数者の方だ。だから少数者をできる限り正確に描いた作品の存在が必要とされてきている。こういった冷笑主義者のせいで。
理解を促そうと少しでも深く掘り下げる意図のない作品など、(ミラーリングするならば)肉食カルトと揶揄されても致し方ないと思う。

・作品内容とは別として、構成自体は飽きずに観られた。犯罪に手を染めた夫を、同等以上に少し頭のねじが外れた妻が嬉々として唆すというマクベススタイル。文字通り血の呪いである。作中には、菜食主義の彼氏と付き合う娘を"ロミオとジュリエットだ"と形容する台詞もあり意図的だ。

・歩み寄りを描いた作品を撮れ。表現者なら。『ビッグ・リトル・ファーム』のような。人間は対立する二項もしくは複数項の間で考え揺れ惑って生きていく生き物だろ。"多様性(笑)"って揶揄してくる、マジョリティの優位性に一生気付かない奴らに構ってる暇、マジでねえよ。何の脈絡もなく"アッラーアクバル"と叫ばせたりといったセンスの無さ、表面的な揶揄に留まって物事を深掘りする気がないならそもそも手を出すな。



↑こういったこと言うと大抵めんどくさがられるが、おう心から大いにめんどくさがってくれよな。めんどくさくない人間にはもう戻るつもりねえからさ〜〜!

 まあでも、大目に見た感想を書くとしたら、レッテル貼りをして個を見ない行為は互いにやめとこう、とそれくらいかなあ。左右で対峙する人々にとってTwitterが議論に向かない場であるように、顔や詳細が見えてこない場で腐す行為は何のためにもならない。最後にも書いときますけど、俯瞰して映画を見ることのできる人ならともかく、確認できる限り確実にヴィーガンへの批判目的で感想を述べている人はいます。そういった人々が存在する限りは今作がヴィーガンへのバックラッシュ誘発映画であることに変わりはないです。
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