拝一刀

福田村事件の拝一刀のレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
5.0
2023/09/01㈮
テアトル新宿にて1回目の鑑賞。11:50から始まる監督・キャスト登壇の舞台挨拶付きの上映回でした。

震災後の
朝鮮人虐殺
社会主義者虐殺
被差別部落民虐殺等々
日本の負の歴史を活写した労作。

加害者が《この村、この国を守るためにやったことだ》と開き直る姿には怒りと悲しみを覚えました。

さてこの映画を見ている時、私は昔読んだ本の中にある以下のエピソードを思い出しました。

《…ユダヤ人強制収容所の看守をしていたドイツ兵に、なぜあのような残虐な行為ができたのかと訊ねたところ、彼はこう答えたそうです。「まずわれわれと彼らを分けた。あとは簡単だった…」》

差別や殺戮は人間を「個人」として扱わず、「俺たち」と「あいつら」に分けることから始まります。

だから飴売の少女が「アタシノナマエハ、キム・ソンリョ」と叫び、信義が「沼部新助、沼部ユキノ、…」と九人(胎児も含めると十人)の名前を一つ一つ丁寧に刻んでいくシーンに深く心を動かされました。


追記:以下、おたけ様へのコメントの一部をコピーしました。

私は今鑑賞後に購入したパンフレットの脚本を、登場人物のチャート(人物相関図)をノートに作成しながら読み進めています。

行商人15名+胎児
福田村村民16名
福田村在郷軍人会3名
田中村在郷軍人会3名
千葉日日新聞関係3名
大島亀戸事件関係3名
飴売りの少女1名

と、作成中のチャートには合計44名(+胎児)が記されております。

最後まで読んでこれを完成させたら2度目を鑑賞しに行くつもりです。

◇  ◇  ◇

2023/09/15㈮
本日はイオンシネマ港北ニュータウンにて2度目の鑑賞。

パンフレットの脚本を読み込んでおいたので、何気なく発せられる一言一言の「重みとつながり」がよく分かり、1回目よりもはるかに深い感動を得ました。

現代日本の社会状況を踏まえると、新助の最後のセリフ、

「◯◯なら✕✕してええんか」

の◯◯には、人種、性別、年齢、職業、貧富、障害等の観点から様々な「人たち」が、そして✕✕には様々な「行為」が人口に膾炙していると思うと慄然とします。

2023/09/18㈪には再びテアトル新宿にて日本語字幕付きの上映(3度目)を見に行きます。

◇  ◇  ◇

2023/09/18㈪
本日はテアトル新宿にて3度目の鑑賞。日本語字幕付き上映でした。

ネット動画でどなたかが言っていたことですが、大柄な体躯で無骨な台詞回しの東出昌大さんに往年の大俳優三船敏郎さんの雰囲気を感じました。

脚本を読み込んでから臨んだ2回目の鑑賞でも聞き取れない場面があってイライラしていましたが、今回は字幕のおかげてスッキリ!

これからは邦画でも日本語字幕付き上映をもっともっと増やしてほしいと思います。

さて、本作品中の「性愛」描写は不要ではないかというレビューを散見します。

この見解に対する私なりの考えを(他のレビュアー様へ寄せたコメントを一部改めて)以下にまとめてみました。


シベリア出兵に参加した夫が遺骨となって戻ってきた咲江は、夫の出征中の寂しさから船頭の倉蔵と「いい仲」になりました。

静子も朝鮮人虐殺に加担した夫が性的不能に陥り、それに対する不満から倉蔵と「いい仲」になりました。

マスは夫茂次が兵役に就いていた間に姑貞次と「いい仲」になってしまいました。(マスが姑の湯灌の最中に、寂しい思いをしていた時の自分を慰めてくれた姑との「営み」を思い出して、思わず自分の胸を押し付けたのはそのためでしょう)

これらの不倫行為は、《村社会が極めて閉鎖性の高い組織であること》と《軍隊(戦争)が夫婦関係のみならず親子関係をも破壊する恐ろしい制度であること》を表現するために演出されたものと理解しております。


さらに付け加えると、

貞次は正吾の祝の席で「死なねぇこった。…生きて帰ってくこった」と「反戦」を唱え、咲江、静子、マス、倉蔵の4名は行商団への虐殺に「反対」する側にまわりました。

不倫をした5名が今の価値観からすれば「最も道徳的・進歩的な言動」を取ったわけで、この「ねじれ具合」がとても面白いと思いました。

また、恩田楓という現代的価値観を象徴する「浮いた存在」を敢えて劇中に入れ込むことで、「今映画を見ている皆さんの多くは、恐らく恩田さんと同じ視点から眺めていますよね」と、こちらの心の中をズバリ指摘されているようで、そのシナリオの見事さに感心いたしました。
拝一刀

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