ノラネコの呑んで観るシネマ

福田村事件のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.5
関東大震災直後。
混乱のどさくさに紛れて、反体制派抹殺を狙う官製デマが吹き荒れる中、千葉の福田村で香川からの行商人一行が朝鮮人と間違われ、住人に虐殺された事件の顛末を描く。
映画の前半は、村の人たちのグチャグチャドロドロのメロドラマで、この辺りはいかにも荒井晴彦らしい。
後から振り返ると全てのエピソードは伏線として機能しているものの、正直やや冗長に感じる。
東出昌大のキャラクターが、プレーボーイの不倫者なのはちょい悪意を感じて可笑しい。
中盤で震災が起こってからは、デマによって人々が疑心暗鬼となり、やがて凄惨な事件に繋がるのだが、震災のずっと以前から権力の意を受けた新聞の印象操作によって、朝鮮人や社会主義者への感情が悪化していたことなども、丁寧に描かれている。
被害者の行商人たちが被差別部落の出身で、同じく差別を受ける朝鮮人に同情的なのも、支配と被支配、差別と被差別の構造を強く印象付ける。
扇動された民衆は一度タガが外れると、いかに簡単に狂気の沙汰に走るかは、現在でも世界のあちこちで目にすること。
フェイクニュースが作り出す分断の罪なども含めて、人間がいかに変わらないかを思い知る。
描かれるのは100年前の出来事だが、同時に十分に現代的なイシュー。
これが初の劇映画となる森達也の演出も堅実で、観応えある作品だ。
ブログ記事:
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