サマータイムブルース

福田村事件のサマータイムブルースのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.3
福田村事件とは・・・

今からちょうど100年前、1923年9月6日、関東大震災の起こった5日後、混乱および流言蜚語(ヒゴ→だれ言うとなく伝わった噂)が生み出した社会不安の中で、香川県からたまたま訪れていた薬の行商団15人が、千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で地元の自警団に暴行され、9人(妊婦の赤ちゃんを入れると10人)が殺害された、実際に起こった凄惨な事件です

当時はたくさんの朝鮮人が日本に労働に訪れていました(または、連れてこられた)
関東大震災の後、各地で、朝鮮人が井戸に毒を流した、家に火を放った、など、根も葉もない噂が流れ、パニックになった民衆によって、実に6000人もの朝鮮人が殺害されたそうです
その中には、どさくさに紛れて、反政府的な要注意人物や、朝鮮人に間違われて殺された日本人もいました

村は戒厳令が敷かれ、村の自警団によって朝鮮人狩りが行なわれました
そこで、たまたま香川県から来ていた薬の行商の一行が、彼らの聞き慣れない讃岐弁に、あいつら朝鮮人じゃねえか!?と疑われ、川を渡ろうとしたところを香取神社付近に拘束されます

一行の代表である沼部(長山瑛太さん)が行商用の鑑札(行商を公的機関から認められた証書)を示して、我々は日本人である、と主張しますが、興奮した自警団と村人は、こんなものいくらでも偽造できる!と言って信じません
そこで、村の巡査が、その許可証が本物かどうか役所に確認に走ります
戻って来るまで、それまで絶対に手を出すなよ!という言葉を残して

自警団のリーダーの長谷川(水道橋博士さん)を始め、今すぐにでも殺害しようとするグループ、いや、彼らは日本人だ、冷静になれ!と止めに入る村長さん(豊原功補さん)グループ、2者のせめぎ合いはとても緊迫感ありました
村長の、もしこの人たちが本当の日本人だったらどうするんだ!の一言に怯む長谷川
すると、沼部が、じゃあ、朝鮮人だったら殺してもええんか!?と絶叫します
それは、まさしく真理であり、ずっと思っていることを言ってくれたので、唸ってしまいました

東出昌大さんが、高身長、イケメンで一際オーラを放ってました
よく彼に関しては、ダイコンという話を耳にします
自分は普通に演技上手いなと感じたのですが、どうでしょうか
そして、彼の役柄が、未亡人に手を出し、人妻と姦通するという間男役です(笑)
ちなみに彼は神社で、行商団をかばう側の人物です

彼の仕事は利根川の渡し船の船頭ですが、その船の上で人妻と情事に耽ります
それを、その旦那の井浦新さんが川辺で遠くから見つめてると言う、シュールな演出
彼は物静かで、自分からは何も行動しない、そして、性的不能で妻に浮気される役です
でもそれには4年前の出来事が深く関係しているのでした
その何もしない彼が、最後に、行商団は日本人だ!!と、助けに入るシーンは、おおっ、となりました

村の自警団リーダー役の水道橋博士は元軍人の単細胞な奴で、朝鮮人を侮蔑しています
マジで憎らしいと思いました
それだけ彼の快演が光っていた、と言うことでしょう

前半は村の人々の日常が映し出されます
普通の人たち、普通に生活をしてる人々です
重要なのは、それは、後半にかけて凶悪な事件を起こしたのと同じ人たちだということです
前半、淡々と人々の群像劇を描いたのは、その事を鮮明にするために、意味のある事だったと思います

朝鮮人が、悪さをしたと言う噂話をしているところに、村長さんが来て、それ、お前ら本当に見たのか?と問いただすと、実は誰一人見ておらず、ただの流言蜚語であることがわかります
噂話が人々を不安にしてパニックにする、パニックになった人間は何でもする、この映画を象徴するシーンでした

現在でも、SNSで槍玉に挙げられた人物が集中砲火を浴びて炎上する、などという集団心理の怖さと似たところがあるなと感じました

ほとんど知られていない事件、殺害された行商団一行が、もともと部落出身で蔑まれていた、ということもあって、マスコミにも取り上げられず、隠蔽されてきた事件、今回、知ることができて、本当に良かったと思いました