ハル

福田村事件のハルのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.8
テアトル新宿の舞台挨拶にて。
ドキュメンタリー作品を多数手がけてきた森達也監督というだけあり、質感はドキュメンタリーそのもの(元来はドキュメンタリーにしようと企画したが、資料が少なく劇映画として制作する運びとなったらしいです)
実際に起きた関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件について紡ぐ内容。

『虐殺』というとショッキングに感じるが、グロい映像はほとんどない。
終盤、群集の煽りによって人々は殺されていくけれど…
デフォルメなしだと、人が人を殺す瞬間なんて案外こんなものなのかもしれないね。
『集団心理の怖さ』と『自衛の為』という大義名分に侵された醜く、弱く、脆い人間の姿が赤裸々に映し出されていた。

事件に至るラストシークエンスまでは村人達の関係性や日常生活がありのまま流されていくだけ。
そのため、『映像作品』として面白いか?と問われたら、何とも答えづらい。
僕自身、この作品についてはキャスト先行で選んだため、事前情報なしの鑑賞になったが、客層は明らかに映画通の方々が多かった。
なので、この高評価の数々が一般的な感覚に沿っているかどうかは謎。
ただ、苦手なスタイルの作風においても最後まで没入して見ることができたのは事実。
訴えかけてくる制作陣の気骨や気概、その熱量は紛れもなく本物だと思う。

史実に対し、学びながら、過去に犯した過ちを受け取り、日本人として何を思うか。
安易な自国批判ではなく、人種差別の根源的な部分に対する問いかけ。
自己保身に加え、相対的に下の存在を迫害すれば助かるという盲信の怖さ。
容赦のない思い込みと増幅されていく敵意が辛辣に胸へと突き刺さる。
同調圧力やヒエラルキー社会、SNSを介した事件が問題になる現代だからこそ、俯瞰的に深堀りできる類の作品に仕上がっていた。

〜舞台挨拶〜
とにかく混んでいたテアトル新宿。
舞台挨拶の回だけではなく、その後の回も満員御礼ということで、意外なことに注目度は高いみたいでした(マニアな雰囲気の方が多く、年齢層も高め)
登壇者多数のため、特に印象に残った二人をピックアップ。
一人は井浦新さん。とにかく言葉の一つ一つが純粋で作品に対する思いやスタッフへのねぎらいの言葉をかけている姿が心に残りました。人間力の塊。
彼はミニシアター系の作品に進んで出演していたり、こうした小規模作品の舞台挨拶や映画祭にもよく登壇しているんだけど、これは映画愛ゆえの行動。
本来これほど知名度があれば人気作だけに絞って出演することができる立ち位置なのに、裾野を広げるために力を貸している人柄がそのまま表れていました。

もう一人は永山瑛太さん。
『怪物』やこの後に公開が控える今泉力哉監督の『アンダーカレント』など注目作目白押しの彼だけど、率直に…ムチャクチャかっこ良かった。
顔小さいし、色黒で、ヤンチャな良い男って感じ。
面構えがふてぶてしいのも、役者だなぁとオーラを漂わせていました。
横浜流星を見た時以来に「おお、マジでかっこいいな、この人」と心のなかでつぶやいちゃったよ。
監督、演者達の生の声は勉強になるし、ものづくりの現場の活力を感じられて素敵な経験、体験に感謝。
また機会があれば参加します。
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