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福田村事件のzhiyangのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.0
在郷軍人会は悪……!(偉そうな軍人役をれいわ新撰組なぞから出馬した水道橋博士にやらせているのがちょっと面白い) そしてまさかのNTRもの(?)だとは……。

本当に寝取られへの恐怖に満ちた映画だったような。最終的に殺しをけしかけたのは父と妻の姦通を疑っていた(事実っぽいけれど)男だったり、夫が朝鮮人に殺されたと思っていた女だったり、奪われることへの恐怖心みたいなものを感じる。逆にモテまくり(?)の船頭は付き合いきれないって感じだったし、物語自体が行商の少年が故郷を出るときに女の子と別れてはじまって、帰ってきたら彼女が待っていたところで終わるし。

加害者(悪い)と犠牲者(悪くない)を明示的に描くなので、どうしても単純に見える部分がある。ただ「地震に乗じて朝鮮人が暴動を…」というデマが流れて殺人に発展する……という史実そのものがはっきり言ってあまりにも愚かなので、どうしようもないか。この単純さ回避のための主人公(寝取られを目撃してもなにもせず立ち尽くしている!)なのだろうが、あんまり存在感なかったですね。行商たちは良かった。柄物?の服を羽織って帽子もかぶった棟梁といい、ちょっとインテリちっくな眼鏡くんといい、明るく個性的な印象が記憶に残る。最後に胎児含めて一人ひとり名前を読み上げるところは、それぞれ生を持っていた人間が死んだことをはっきり告げているようで良かった(新聞記者の前で殺された朝鮮人も最後に名前を名乗っていた)。

「お前はデモクラシーに見捨てられたんだ」だっただろうか。村長にすがった行商を殺すときに在郷軍人会の男が言った言葉が強烈だった。表向きは開明的な村長(本当は村社会の一員でしかないけれど)と、常に偉そうな在郷軍人会の存在は作品を通じて対照的で、大正というのはそうした不安定な時代だったかと考えさせる。多くの日本人にとって大正という時代は大正デモクラシーやモダンなおしゃれさが華やいだイメージも(それがすべてではないにせよ)あるだろうが、その時代が顧みなかった人たちがいたことを一言でぶつけてきた上記の台詞は強烈だった。総じて言えば「普通」というのが映画としての正直な評価だけれど、題材が題材なだけに一見の価値はあると思う。
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