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福田村事件のYAEPINのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.3
関東大震災に際して発生した朝鮮人への虐殺と、福田村事件について、議論すべき点がかなり網羅的に提示された映画だったと思う。

全体的には説明的な台詞が多かったが、福田村事件は「日本人が間違って殺された」ことが問題なのではなく、「出自を理由に人が殺された」ことが問題であるという、決して間違ってはならないポイントが分かりやすく提示されていたので良かったのかもしれない。

実際に被差別部落出身の行商人たちの中にも「俺を鮮人と一緒にするな」という発言があり、虐げられる者が更に弱いものを虐げる構図も描き出されていた。

また本作で特に興味深かったのは、加害者たちの日常にフォーカスを当てたことである。
この映画の6割は福田村の住民の暮らしを映していて、在郷軍人会を始め軍国主義やマッチョイズムが深く根付き、更にそれを発露する場がなく鬱屈とした雰囲気が漂っていたことが分かる。
あまりに適役すぎる東出昌大を中心とした痴情のもつれに至っては、一体何を見せられているのかと思ったが、そういった日常の不安や不信感が、格好の標的を前に堰を切ったように溢れてしまった様子が描かれていた。
小さな誤解や思い込みから、誰しも簡単に加害をしてしまう可能性があることを強く感じた。

キャスト陣の中では、特に福田村長を演じた豊原功補が素晴らしかった。
普段から自由主義的思考を持ち、人権と平等を重んじる社会の実現を望んでいたが、結局在郷軍人会や自警団の暴力を止めることが出来なかった人物の葛藤を表現していた。
方言も彼が一番上手かったと思う。

田中麗奈の演じる澤田静子は掴みどころがなく、少しイライラするキャラクターだった。

森達也監督はドキュメンタリー作家とのことで、固定された画角の長回しの中で、登場人物がぽつりぽつりと過去や信条を語らせることで異様な緊張間を生んでいた。
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