木蘭

福田村事件の木蘭のレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.6
 想像の斜め上を行くエロスとタナトスに満ち溢れた作品だった。
 そして、戦闘力のない左翼とふがいないインテリ、バカはどこまで行っても哀れなほど馬鹿・・・という残酷な話でもあった。

 ドキュメンタリー映画監督による劇映画に良いイメージは無いのだが、これがどうして素晴らしく、ドキュメンタリー的な描写は用いず、あくまでもフィクションとして描かれる生々しくも濃密な人間ドラマに引き込まれた。

 長尺の上映時間の大部分は前日譚ともいうべき、福田村や行商団の日常と人生が群像劇として・・・それも男女の性愛をたっぷりと絡めて・・・描かれる。それは加害者も被害者も群れではあったが、個でもあったという様に。
 同時にそこに、100年前の彼ら彼女らが置かれた状況を観客に理解させるべく・・・部落差別に水平社宣言、プロレタリア芸術に労働運動、警察や憲兵の弾圧と煽動、ハンセン病、日韓併合に創氏改名、新聞の自主的な検閲、徴兵に在郷軍人会、社会の中の女性、夫を兵隊にとられた妻たちの性愛・・・等々といった問題がモリモリと詰め込まれているが・・・無理がある部分もないわけでは無いが・・・破綻していないし、飽きさせない。

 それを血肉ある物語として語らせる俳優たちが素晴らしく・・・こんな良い演技をするんだ・・・と驚いたくらい。逆に演技力の実力差が、残酷なくらい出てしまってもいたが。
 女にだらしない船頭役に東出昌大、インテリにコンプレックスを持つ在郷軍人会員役に水道橋博士という配役は笑ったけど。
 あと田中麗奈が可愛くて切なくて死んだ。あんないじけたインテリによく付き従ってくれたよなぁ。そりゃお前、黙って背負って運べ!って思いました。

 素晴らしい人間ドラマが描かれた作品だったのだが、広げて深めた群像劇を、災害の発生と共に一気に緊張感を高めながら、クライマックスに向けて収れんさせていくデザスター映画としてのカタルシスは弱く、そこが完璧だったら、終劇後に立ち上がれなかったかもしれない。

 それと、痺れる様な深いセリフがあるかと思えば、軽薄に聞こえてしまうセリフ回しもあって、臭いまでに愚直な正義や良識を語り掛ける事の難しさと厳しさも感じたな。
木蘭

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