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福田村事件のKOZOのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.5
良質なドキュメンタリー作品を作ってきた森達也監督の初のドラマ作品(個人的には旅行中に立ち寄った満席の渋谷の「ユーロスペース」で観た『FAKE』が印象的。佐村河内さんは今何してるのだろう…)。

関東大震災から100年、我が国の近代における負の歴史を正面から描いた衝撃作、今日のシネリーブル梅田は全上映回満席で期待の高さが窺える。

1923年9月1日に起こった関東大震災後に拡がった“朝鮮人が火をつけた、井戸に毒を流した”というデマによって多くの朝鮮人、中国人、社会主義者、そしてこの事件のように「間違われた」「疑われた」日本人が日本人によって虐殺された。
そしてこの事件の被害者たちは行商に来ていた被差別部落民だった。

観終わっていろいろなことを考えさせられた。
在日や部落差別だけでなく、熊本地震の時の動物園からライオンが逃げ出したとのフェイク画像、コロナ禍で欧米で起きたアジア人差別、トランプ信者によるアメリカ議会襲撃事件も。
いつまた大地震が起きてもおかしくないと言われるなか、100年前と同じように群集心理によって(さらにSNSの恐ろしさによって)人が人でなくなってしまうことになるかもしれない。

前半の村人たちと行商人たちの日常を描いた前半、メロドラマ的なシーンには賛否両論ありそうだけど、主演の井浦新と田中麗奈の夫婦の溝にも戦争の影が。
村長役の豊原功補が村の人たちにデモクラシーの素晴らしさを説くものの軍国主義に潰されていく様は辛い。
役者陣で印象的だったのは、女性記者としてジャーナリズムに燃える木竜麻生の眼差しの強さ、その上司でついに復活?ピエールが元気そうで(出演シーンは少なくて辛い役どころだけど)嬉しい。
復帰してから何本も出演作観てる東出昌大はますますいい仕事してるなあ。
これ誰だっけ?と思っていてエンドロールでやっぱり…と思わされた一番の悪役だった博士、ネットの記事を見たら議員当選後にこの撮影をしてから心を病んで議員辞職して…この作品もメンタル的に影響したのかも。心配してたけど、舞台挨拶に登壇してたようで良かった。

残念なのははっきり言ってしょぼい劇伴(エンドロールで某有名ミュージシャンが音楽担当とわかったのはショック。名前はあえて書かないけど同姓同名?)。無音でも良かったような。

決して万人受けしないのはわかりつつ、多くの人に観てほしい良作。さすが森監督。
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