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福田村事件のABBAッキオのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.2
2023年森達也監督。関東大震災100周年で、日本人の大半が知らない福田村事件を題材にした映画作品が封切られた。讃岐の被差別部落から、薬売り行商で旅する一行が関東大震災直後に千葉の福田村を訪れ、朝鮮人と見なされて虐殺を受けた事件。映画はその前半で震災前の日本社会、福田村に存在した矛盾や緊張感を丁寧に描く。シベリア出兵で戦死した兵士の家族、町で影響力をもつ在郷軍人会、デモクラシーに希望を持つインテリ村長、朝鮮半島で教師だったが万歳事件で挫折し、帰村した男とその妻。この時期にあった緊張感が震災をきっかけに大きく増幅し、朝鮮人テロという流言飛語を生み、政府もメディアもそれを利用し、拡散する。
 井浦新(ARATA)、田中麗奈、永山瑛太(瑛太)、東出昌大、コムアイはじめ出演者(ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明らの助演も目立ちすぎず印象を残す)が皆力強い演技を見せ、本作の脚本への強い共感が感じられる。現在の価値観や言葉遣いに翻案していると思われる部分もあるが、概して時代考証も丁寧でリアリティを感じる。
 全体としてとてもパワフルな作品であり、今の時代に本作の映画化を実現した森達也監督とその支援者に敬意を表したい。主要配給会社作品でないためにアカデミーなどの対象にはならないだろう単館上映だが一人でも多くの人に見てもらいたい作品。
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