yoogee

福田村事件のyoogeeのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.1
森監督の舞台挨拶を聞いた中で印象に残ったのは、曰く「反日映画として3日で上映中止に追い込まれそうな」作品に、1000人超の俳優たちがオーディションを受けに来たこと。
東出昌大氏なんかは森監督が劇映画を撮ると聞きつけて自ら出演希望したと知った。

韓国では光州事件を描いた作品がここ10年間でいくつか出ている中で、日本にはそれがないことに俳優たちの方が「なぜこの題材で出せないのか?」と思いを抱いていると聞き、少し希望が持てたような…。


鑑賞前の本作に関するさまざな紹介記事などを読んで感じたのは「朝鮮人と誤解されて虐殺された日本人もいた」といった書き方だと、「じゃあ朝鮮人ならいいのか?虐殺を肯定するのか?」という点だった。だって100年前は朝鮮半島が日本の植民地下にあり、言うなれば「朝鮮人」は存在しなかったはず。全員が「日本人」だったはずなのに、特定の民族ならジェノサイドの対象になっても良いのだろうか。そんなことをずっと考えていた。

作中のセリフにもあるが、被差別の立場にいる人や、社会的弱者が考えるもののなかに、「あいつらよりはマシだ」というものがある。そうやって現状の生きづらさを飲み込もうとする。競う相手や抗う相手が違うはずなのだけど、そう考えるしかなかったりもする。

本事件の生存者または遺族は、多くがこの史実を語らなかったようだ。それは「被差別部落なら仕方ない」「部落の言うことは信用ならない」といった声に再度傷付く恐れが消せないからだろう。森監督らは闇に葬られた本事件をよく掘り起こしてくれ、被害者らの声に光を当ててくれたと思う。

残念ながら、100年前に蔓延したヘイトクライムの空気は、現在もことあるごとに吹き出し、在日をはじめとした被害当事者らがその都度恐ろしい思いをする。京都ウトロの住民など、実際に被害を受けた経験を持つ人も出てきている。

普通の市民が、混乱のデマに踊らされて極端な選択に走ることがあるのだと気付かせる作品なのは間違いない。そして、いつだってその被害者になりうるのは在日コリアンらであるという現実を突きつけてくるものであった。
yoogee

yoogee