たくみ

福田村事件のたくみのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.3
【守るとは?】
こういう映画がやる事は公開前から知っていたのですが敢えて何も知識を付けずに鑑賞しました。
どの映画製作会社も内容をタブー視して出資に難色示し、結果クラウドファンディングという形で公開までこぎつけたそうです。
こういった事実を伝えていくのも映画の素晴らしい所だと思うのですが、日本の映画会社は何をしてるんですかね。

舞台は関東大震災前後の千葉。
大震災の不安を紛らわすために朝鮮人にまつわるデマが広まってしまう。
そんなデマに振り回された人々のお話です。

なんと言ってもこれが事実であるという事に恐怖を覚えます。
正しい事を言っている者に対しても、色々理由を付けて(論点を反らして)正当化していく集団真理の怖さ。
みな自分を守りたいだけだったのに、歯車がちょっとずつ噛み合わなくなり最悪の結末を迎える。
誰も救われません。
村のために正義を貫いたもの、朝鮮人ではないと訴えたもの、強く止める事の出来なかったもの、残されたもの、こういった事実を伝えなかったもの、そして朝鮮人。
本作では彼らの日常をかなり丁寧に描いているからこそ、彼らが狂っていってしまう姿に目を背けたくなりました。

弱者を叩く事でしか心の余裕を保てない弱者。
彼らに永山瑛太演じる新助が叫ぶ「朝鮮人なら殺してもええんか?」というセリフ。
これは現代にも通ずる言葉だと思います。
SNSで袋叩きにされて自ら命を絶ってしまった方が芸能界でも最近いたかと思います。
死んでから事の大きさに気付き、みんなしれっと社会にまた溶け込んでいく。
自分の行動や言葉には暴力性が秘められているという事を意識する必要性を一段と強く感じました。

もう一つ印象に残ったセリフがあり、事件が起きてしまった後、新聞記者の
「書かなかったから殺されたんです、だから書いて償わないと」
という言葉が一番胸に残りました。
これも現代社会に通じる言葉だと思います。遅すぎる事は無いからこそ変わろうと思ったタイミングでいいから変わっていく世の中で合ってほしいです。

映画は澤田夫妻が船に乗っているシーンで締めくくられます。
「どこへ行くの?」
「教えてくれないか?」
2人の行き先の事なのか、それともこれからの日本が向かう先の事なのか。

学ぶべきことはたくさんあると感じた一日でした。

【その他メモ・独り言】
・性的描写が多い事に難色示している人が多いが、この時代は娯楽や携帯も無いからそれくらいしかやる事が無かったという風に理解し、個人的には不要なシーンでは無かったと思う。(死んだ義父に胸押し付けるのは要らんかったと思う)
・役者陣ハズレ無し。
・朝鮮人の女性が自分の名前を大声で叫ぶシーンが一番自分のアイデンティティを誇っているように見えた。
たくみ

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