バンバンビガロ

福田村事件のバンバンビガロのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0
『A』などで知られるドキュメンタリー作家、森達也による初の劇映画作品。
福田村事件と呼ばれる実際に起こった村の自警団による集団殺人事件を題材にした作品で、そこで描かれるのは国や社会、共同体といったより大きなものに自らを同化させてしまう大衆とそうした社会的枠組みから排除されてしまった人々。これは監督の過去作『A』におけるオウム真理教信者とそれに反応する大衆の関係とも通底するところのあるもので、森達也監督の社会に対する一貫した問題意識を反映したものだと考えられる。
この映画の一つのテーマは漠とした社会や周囲のムードに流されていった結果、良心や道徳の基盤が歪んでしまうことの恐怖を描くことで、この映画のクライマックスに朝鮮人であるという疑いをかけられた薬売りの一団を自警団が詮議する場面において、観客の意識を「朝鮮人か、日本人か」という問題に誘導したうえで永山瑛太演じる薬売りの「朝鮮人だったら殺してもいいのか」というセリフによって前提の歪みを観客に疑似体験させる手法は非常に鮮やかであると思う。
いくつかの場面やセリフにおいて制作陣の「これを伝えなくてはならない」という使命感がやや先走ってしまったように見えるところや本筋から外れたところで嫌に性的な描写が多いところなど、気になる部分もないではないが一本の映画として十分に面白く、力の入った労作であると思う。
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