こなつ

福田村事件のこなつのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0
1923年9月1日発生した関東大震災のわずか5日後の9月6日に起こったこの事件は、千葉県の福田村(現野田市)三ツ堀の利根川沿いで実際に起きた。

関東大震災から100年、歴史の影に隠れてきたこの事件について、今回この作品で詳細に知る事ができてこんな事があったのかと驚く。

大震災で人々がパニックに陥っている中、良からぬ噂が流れてそれを信じた村の人々が、自分の村を守ろうと自警団を作る。たまたま香川県から来ていて通りかかった総勢15名の薬売りの行商を、朝鮮人と疑い、幼児・妊婦を含む9名を惨殺してしまう。

それまでは福田村で普通に生活していた人達が、あんなにも凶暴で冷酷な行動が出来るのか、集団の中では一人ではしない事もやってしまう恐ろしさ。讃岐弁を話していたから言葉が良くわからなかったり、「被差別部落」の人達だったから違って見えたり、、それでも人が人を殺めるのは決して許されない。本作の中でも「朝鮮人だったら殺していいのか」という台詞が強く心に残る。100名以上もいたと言われる自警団の中で、8人が逮捕され懲役2年~10年になったが昭和天皇即位の恩赦ですぐに釈放されている。

行商団のうち生き残って故郷に帰り着いた生存者から、86年に聞き取った証言の記録が香川県に残っていて、事件の詳細を把握することが出来たらしい。福田村の人々にとっては加害者の歴史として多くは語られなかったのだろう。2003年事件発生から80年が過ぎて初めて事件現場に慰霊碑が建てられた。

ドキュメンタリーディレクターとしては有名だが、映画監督としては知られていない森達也監督がクラウドファンディングなど苦労しながら世に出したこの作品は、負の記憶を継承するという意味でとても重要なことだと強く感じた。
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