凄惨さや人の醜さ、哀れさ、そしてやるせなさに打ちひしがれてしまった。そして、いざ自分もその現場にいたら加害者になっていたのではないかという恐ろしさ。
『es』や『THE WAVE』でも描かれている通り、人は容易に集団に飲まれてしまうものだから。。。
本作、森達也が描き続けたものがギュッと濃縮されたような作品であったように思う。
「朝鮮人にも良い人も悪い人もいる、日本人にも良い人も悪い人もいる」というセリフがあったが、これは『A』でも監督が同じ事を言っていた。信者にも良い人もいれば悪い人もいると。
そして、メディアは悪にルールもクソもないと言う事で、施設に押しかけ無断でカメラを向けたが、森達也氏は通常の取材通りにアポを取った事で、普通に施設に招かれカメラを回す事が出来たと。『i 新聞記者ドキュメント』も同様、メディアの在り方というものにも切り込んでいた。
『いのちの食べ方』では差別部落について問題提起していたが、行商団についても正にそれだ。
『死刑』については、人が人を裁く危険性について述べていたが、自警団が犯した過ちもこれに通づるものがある。
つまり、森達也監督の集大成であり、1923年に起こったこの事件にまつわる数々の問題が今尚変わらぬ問題として残っているという意味で、観ておかなければならない作品である。
同じ過ちを繰り返さないためにも。
コロナ禍、多くの情報で錯綜し陰謀論やデマに踊らされてしまった人も多かったはず。
当時は新聞や人の伝聞の情報しかなかったが、現代これだけ情報に簡単にアクセスでき、情報の検証などもしやすくなっていても、正しく情報を精査するのは難しい。
首都直下、南海トラフ、富士山噴火が予期される中、同じ事が起きないとは言い切れないのだ。
教育の大切さを語るシーンがあるが、本当にそうだ。分からないから怖いのだ。分からないから正しく恐れる事が出来ない。無知は罪だ。
分からないから恐れ、恐れを排除する為に暴力を振るい、復讐されるのではとさらに恐れ、力で押さえつける、正に負の連鎖だ。
『鬼が来た！』の惨殺シーンもかなりこたえたが、本作も中々キツい。
エンドロールにもあったが、こんなような事が全国でおこり、6000人と推測される方々が被害にあったと思うと本当に苦しい。
そして関東大震災から100年、今尚虐殺はなかったとされている事についても同様に苦しい。
しかし、ピエール瀧や東出昌大なんかも、メディアに踊らされた当事者であるように思うが、それもあってか2人の演技の凄みは凄かったな。
コムアイの演技も初めて見たが素晴らしかった。
瑛太も田中麗奈も柄本明、素晴らしかった。
この映画に多くの方がクラファンで支援しているというのが分かるエンドロールが救いであった。
