umisodachi

福田村事件のumisodachiのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.8


ドキュメンタリー監督である森達也が初めて手掛ける劇映画作品。

1923年。日本統治下の京城から妻と共に戻ってきた教師の澤田は、もう教師はやめて百姓になると言い、無気力に過ごしていた。まだ若くお嬢様育ちの妻・静子は夫の変化や慣れない日本の田舎に戸惑いながら暮らしていた。そして9月1日に関東大震災が発生。都心ほどの被害はなかったものの、朝鮮人が略奪などを繰り返しているという流言が飛び交い、村でも自警団が結成された。やがて自警団解散の指示が出たころ、香川からの行商人たちが川を渡ろうとすると……。

朝鮮人に間違えられた日本人が殺されるという、実際にあった事件を描いた作品。今まで朝鮮人虐殺についての映画がほとんど作られてこなかったこと自体がおかしいと思うし、おそらくある程度ヒットした作品がこの「朝鮮人と間違えられて殺された日本人」の作品だというのも複雑な気持ちになる。しかし、その複雑な感情を別にしても、観るべき作品なのは間違いない。

正直、映画としてどうかと問われると……自分としてはあまり評価できない。というのも、前半の人間関係パートがあまりに陳腐というか。特に女性や性の描き方がよろしくない。小さい村や時代の閉塞感を表現するのに、欲求不満の女を3人も登場させる必要性があるとは全然思えない。欲求不満な女たちの言動の不自然さもたいがいだ。「ほしい?……私を」なんて言うかね?

それ以外にも、セリフのやりとりがナチュラルじゃないなあと感じる部分が多々あり、けっこう集中力を削がれた。また、メイクがどうも綺麗すぎるというか、皆が皆とっても綺麗なお肌をしていてリアリティに欠ける。作劇としては「どうなの?」と思う要素が多々あったのは否定できない。

しかし、ラスト30分は凄い。太鼓のリズムと共に描かれる殺戮シーンは敢えてホラー的な演出でドラマチックに描かれていて、脳裏に焼き付く。それだけに、殺戮開始の直前に行商人の親方が叫んだセリフが際立つ。どんなに歪だろうが、どんなに不自然だろうが、「語りたいこと」が明確な映画は強い。信念がある芸術には、それだけで大きな価値があると私は思う。

どれほど容易く大衆がデマに惑わされてしまうのか。例え疑念を抱いたとしても、それを貫くことがいかに難しいか。言うまでもなく、100年前を描いた本作が提示する人間への糾弾は、我々が生きる現代社会へとダイレクトに投げかけられている。

役者は総じて良い(不自然なセリフは演技のせいというよりは、脚本自体や演出のせいだと思う)。特にコムアイ。所作がリアルで驚いた。


umisodachi

umisodachi