藍紺

福田村事件の藍紺のレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.2
違う属性の他者を排除しようとする人間の本質、後ろめたさや無知、恐怖心から起こる人間の攻撃性。間違った正義を振りかざし結果的に罪なき人を虐殺してしまった福田村事件。悲しい結末を知った上での鑑賞はなかなかに辛くやり切れなさが残った。

劇中、村の住民たちの生活をつぶさに描くことで、多かれ少なかれ皆んな普通に大正時代を生きている人々であることが分かる。でもそれがひとたび集団になり防衛自衛を掲げた途端、よそ者を殺せてしまう人間の愚かさ。差別意識は絶対になくならないのだと改めて思う。群れでしか生きていけない人間である以上、同調圧力に屈しないためにはどうすればいいのだろう。流されやすいことを自覚しつつ、人に危害を加えてもいいのだという状況に陥らないように努めていくしかないのかな。この作品でも出てくるけど、人間のごく一部には人を殺したいという欲望を抱えて生きている人がいる。隙あらば、戦時下や非常事態下に乗じて他者への攻撃性を露わにする人が少なからずいるのだ。東出昌大演じる田中倉蔵に私はなれるだろうか。彼みたいに行動できるようになりたいと思った(不倫は真似しませんよ)。

森達也監督が、「この映画だってフィクションなのだから鵜呑みにしないで」と発言している記事を読んだ。様々なドキュメンタリーを撮ってきた森監督だからこその慎重な物言いで、とても印象に残った。数多の情報の中から正しい取捨選択することは本当に難しい。
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