ゴン吉

福田村事件のゴン吉のレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.2
大正時代に実際に起きた行商人虐殺事件をベースに描いた社会派ヒューマンドラマ。 
井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大らが共演。 

1923年千葉県野田町駅に、シベリア出兵で戦死した若者の遺骨を抱えた女性と、朝鮮から帰国した日本人夫婦が降り立つ。野田町は利根川水系の運河が貫く醤油の町でもあり、渡し船を使って人々は行き来していた。ある日、四国の讃岐から15人の薬の行商の一団が町にやって来る。そんな折、関東大震災がおき、悪事を働く朝鮮人の噂はもとより地震に乗じて朝鮮人が襲ってくるとの噂まで流れるようになる。政府は治安維持のため自警団の結成を通達するが、朝鮮人というだけで若い娘までもが日本人の一般市民によって平然と殺される。そんな中で薬の行商の一行と野田町民との間で些細なことでいざこざが起き、田舎者の野田町民は行商の一行が訛った言葉を話すことを理由に、一方的に朝鮮人と決めつけて女子供までも虐殺する....   

関東大震災に乗じて、5000人以上もの朝鮮人や中国人、社会主義者たちが殺されたという。
当時の様子がよくわかる社会派の骨太作品。
閉鎖的で風評に惑わされる日本人の気質を端的に表した事件が嘆かわしい。
朝鮮人をはじめとするアジアの外国人に偏見を持ち、力のあるものに対しては口を閉ざす一方で、立場の弱い人々には高圧的な態度をとる日本人が描かれている。
噂を鵜呑みにして真実を確認しない愚かな日本人の国民性が哀れで憤りを感じずにはいられない。
加えて内務省の通達は真偽を確かめずにそのまま記事にするが、国に不都合な事件は実際に記者が現場で目撃した真実であっても報道しない新聞。
本事件は大正時代に実際に起きた事件ではあるが、今日の日本も本質は全く変わっていないように思われるのが残念である。
ラストシーンで海外で生活した経験を持つ日本人夫婦が小舟に乗って小さな田舎町を後にする。
「どこへ行くの?」
「教えてくれないか?」 
これから我が国はどこに向かうのだろうか?

2024.5 配信で鑑賞
第47回 日本アカデミー賞で優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞を受賞(2024年)
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