Tetsuro

水槽のTetsuroのレビュー・感想・評価

水槽(2022年製作の映画)
3.4
「セリフ」の含まれる幾つかの議題は面白い。(もう一捻り欲しいところ)

キャラクターがそれを説明するような「セリフ」の立ち位置ではなく、鑑賞者が「セリフ以外からも感じ取り無意識で考えてしまわずにはいられなくなる状況」をつくり出すための「セリフ」の立ち位置であって欲しかった。

ここまでの葛藤を持つキャラクター達はこれらのセリフをそう簡単には口にできない。(本読み、意見交換会、カウンセリング、役者、など映画内で別の何かの設定の場合以外は)
人が喋れる身体と状況に置かれていない状態で、心の内をそのまま口から出そうものなら違和感として映ってしまう。

「金魚や風船、スコップetc…」などの内面の写鏡であるような「物」がキャラクターの会話と関連して登場するが、その立ち位置も「セリフ」の立ち位置と同様に人の心が伝わることを妨げる。
内面の葛藤をキャラクターがオシャレするかのように着飾ることなど社会で生きてる人はまずしない。本当に苦しんでいる人ほどむしろ隠す方向に行くはずだ。

「物」の在り方として見たかったのは。鑑賞者にとっては「モチーフ」として働くと同時に映画内のキャラクターにとっては「生活に関わる/関わらないただのなんてことない物」として存在しつつ、それをカメラで捉える瞬間を入れることで「意味」の距離感がキャラクターの心と同期するようなものだ。

この「セリフ」「物」を現実を基準に考えて映画に加える必要はないが、
ある種の現実世界のフィクションとして描くとしても、そこには社会があり、そこで生きる人としての「喋る」意味や基盤、その人たちが扱う「物」の意味や基盤があって。それが見えてこないと重要な人の心が靄に隠れてしまう。

色々書いたけど、自分の作りたい映画の「当たり処」を少し絞ることができた気がする意味では、ありがたい映画でもある。
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