じゅ

ロスト・キング 500年越しの運命のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

あまりにも麗しすぎるなイマジナリー・リチャード3世。


リチャード3世。王位の簒奪者とされてシェイクスピアにも身も心も歪んだ人物として描かれた王。フィリッパ・ラングリーはある日彼の幻影が見え始め、片っ端から彼に関する書籍を読み漁って歴史家の講演を聴講するようになった。いつしか「敬意を表したく」なって彼の墓参りをしたいと望む。しかしリチャード3世は川に捨てられ、墓はないというのが通説だった。それでも彼女は直感に突き動かされるように調査を続け、現在は社会福祉課の駐車場になっているコンクリートの下に埋まっているという仮説に行き着いた。クラファンで集めた資金と市議会の賛同により、コンクリートを引き剥がし発掘に着手する。ついに掘り起こされた人骨。詩人がかの王を題材に詠んだ詩の通り後頭部に傷のある頭蓋骨と、シェイクスピアの描写の通り歪曲した背骨。その姿とDNA検査結果が示す通り、紛れもなくリチャード3世の遺骨だった。その手柄は大学が横取りした上、改めて埋葬した彼の墓に紋章を刻むことを認めなかったが、フィリッパは女王から大英帝国勲章を授かり、2018年に王室はリチャード3世を正式な王と認めるに至った。

っていう、事実に基づく物語。
彼女の物語。


人生で正当な評価を得られず真価を発揮できなかった人物の話、っていうのが、作中のフィリッパがどこかの学校で講演した内容だったか。なにもあなたまでそうならんでも。
なんとか大学のそれこそ簒奪みたいなのはどこまで本当だったんだろう。丸ごとかな。一応俺も(考古学とか歴史学とか関係ないけど)研究職として身が引き締まる思いだ。アマだからとバカにして軽んじて決め付けて、いざ本当に成果が、それも国を動かしてしまうようなどでかい成果が出てきてしまうと、掌をひっくり返す程度ならまだしも堂々と手柄を主張する。彼らの喜びは、超重大な発見に対してじゃなく、超重大な発見により得た名声に対してなんだよな。
あくまで作中の描写のことだけど、バックリーの助手2人も、合わせる顔がないとでも言わんばかりに目を逸らしたくせに宴席に向かう車の中でなんであんな素直な笑みを浮かべることができるんだろうな。


さて、このフィリッパという人物はさも直感に従って見つけたみたいに描写されてた。発掘計画を承認したサラにも、喜びを分かち合った時にそんな風に話してたか。
どうなんだろう。確かに直感的なのが何か良い方向に導いてくれることがあるような気はするけど、それでもなお完全な直感みたいなのは信じてない。俺は。
そういう直感って、無学だったり思考が浅い間は降りてこないと思ってる。まあそんな考え自体が直感みたいなもんだから、その思考は十分なんですかって話ではあるけど。ともかく言いたいこととしては、作中でフィリッパの直感とされたそれらが、実は彼女の深い学びと思考によって無意識に整理された論理的な結論だったんじゃないかってこと。彼女の頭の中にだけあった膨大な資料に基づく論理の繋がりが、ただ言葉で説明できなかっただけだったんじゃないかと。

まあでも論理って、情報を飛躍がないように繋げただけのもんだから、繋がった情報のどれかが誤ってたらその先の結論は崩れる。ある意味、彼女の無意識の論理を構築した情報群が正しかった幸運が最終的に効いたと思ってる。だとしても運も実力のうちだと言う資格は彼女にあると思うけど。
でも、同じ志を持って同じ努力をして最終的に運に見放された人たちがこれまで大勢いたかも。そんな彼らも、この一大ニュースに喜んでくれてたらいいと思う。


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【2023/10/07追記】
せっかく言葉知ったから覚えときたい。


■筋痛性脳脊髄炎(ME) / 慢性疲労症候群(CFS)

これまで健康に生活していた人が突然激しい全身倦怠感に襲われて、以降健全な社会生活が送れなくなる疾患。強度の疲労感と共に、微熱、頭痛、筋肉痛、関節炎、脱力感、思考力の障害、抑うつ症状が長期に渡って続く。現段階では詳しい発症要因が分かっておらず、明確な治療法も確立されていない。

日常生活に支障が出るほどの疲れ
微熱、悪寒
喉の痛み
リンパ節の腫れ
筋力低下
筋肉や関節の痛み
ちょっとした動作での疲れ、労作後24時間以上の全身倦怠感
頭痛、頭が重く感じる
不眠、過眠
思考力や集中力の低下
意欲が湧かない
憂うつ
辺りが何故か知らんけど6ヶ月続いてるとか、あるいは再発を繰り返しているとかあったら可能性あるそう。


■リチャード3世

イングランドのヨーク朝国王。
1455-1485年のバラ戦争(王位継承をめぐる内乱)の後に登場した。ランカスター朝を倒したヨーク家のエドワード4世の弟で、グロスター公を名乗る。
1483年にエドワード4世が没した後を彼の子のエドワード5世が継いだが、グロスター公リチャードがそのエドワード5世をロンドン塔に幽閉した。チリャードは、兄エドワードがヨーク公の庶子で自分自身が嫡子であるとし、エドワード5世を廃位して自らリチャード3世として即位した。さらに、エドワード5世とその弟を殺害し、他の王位継承候補者や反対派の貴族を暗殺して権力を握った。
1485年、リチャード3世は、テューダー家のヘンリとのボズワースの戦いで敗れて殺害された。ヨーク朝は滅亡し、バラ戦争は終結した。

なお、ヘンリのテューダー家は、ブルターニュに亡命していたランカスター家と繋がる。ヘンリはヨーク家の女性と結婚してヘンリ7世となり、テューダー朝を開いた。
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