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ロスト・キング 500年越しの運命のthornのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

ぜんぜん期待してなかったが、かなりの掘り出し物だった。

この映画は邦題が最悪だと思う。どんな映画かさっぱりわからない。

ただ、何も知らなくても別にそれほど問題はない。

良い映画とは、人物同士の関係が自然で、極端に良い人も悪い人も出てこないものだ。

しかしこの当たり前のことをクリアしてる作品は非常に少ない。

筋は非常に明快であり、「仕事でうまくいかない40代の女性が、子供の学校の演劇で観たリチャード3世の演劇に触発され、彼のことを調べるうちに、彼の遺骨の場所を直感を頼りにして調べ始め、そしてほぼ直感だけで見つける。しかし最後には社会的な成功は協力した大学に奪われる」という話。

リチャード3世に惹かれたきっかけや理由の描写が説明的じゃないけどわかりやすいですよね。

遺骨が見つかった時に王が白馬に乗ってやってくるのがベタでいいねー。一番大事な場面でベタな表現を恐れない映画好きです。もちろん他の部分は繊細な表現を望むけどね。

そして契約書にきちんと目を通さなかったため抜け目のない大学に成功を奪われるというのも、素人が大学と関わったら本当にありそうだな、とも思ったし、主人公であるフィリッパが社会的な成功や名誉にはあまり興味がなく、

推しの汚名を晴らすことにのみ異様な執念を燃やす様はとても現代的ですし、共感もするし、

なにしろ家族(わかれた旦那とふたりの子供)との関係が良くも悪くもないのがとても良いのだ。彼女自身もそんなに立派な人ではない。飾り気がない、普段着な感じ。対人関係に不器用なところがあったり、大事なところでへこたれたりする。直感が強すぎるため、駆け引きが苦手だったりする。めっちゃ素直だ。

やたらと判官贔屓を煽るために弱者を聖人のように崇め奉るような映画が最近多い(失礼)ですが、この映画にはそういうところがない。バランスがとてもいい。むかつく奴も出てくるが、まあこういうやついるよね、というレベル。それは原作者自身もそう思ってそう。別に悪人とかではない。考え方が、持ち場が違うだけなのだと。(なんかその感覚、歳とったらわかる気がする)

人間の描き方がフェアなんですよね。分け隔てない。それは原作者の思想が関わってるのかも知らない(原作読んでないから知らないけど)。だとしたら素敵ですね。

ストーリーの流れが自然であり、違和感がない。実話ベースの映画は数多いが、実話だからこそ違和感まみれになる作品も多い。実話ベースの脚本は意外とリアリズムを担保するのが困難なのかもしれない。人生の一部を切り出したものだから、なかなかこのように公平性を保ちながらストーリーをつくるのは難儀ですからね。バランスをとりにくい。

直感や偶然ってほんとに面白いよね。みんな意外とそう思わないんだなーと。あんまり世間の映画評は当てにならないんだな。

経験や、数値や、方程式や、前例やら、そういうものと対極にある直感について、それを大切にするとはどういうことなのか。わたしは直感というのは、とても女性的なものと思っていて、もちろん私のように男性で直感を重視する人間もいるとは思うが、きっと資本主義社会というのは、おおよそ男性的な論理の世界なのだろう。でも私の好きな表現者は、おおよそ論理では説明のできないものごとを信じている節がある人が多い。そして、そのことについてなにかしらの苦しみを感じていることが多い。


人の直感って捨てたもんじゃないと思ってる人。そのことで社会に馴染めなくて辛い人。そういう人はぜひ観てみてほしい。すこしホッとするだろう。
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