みりお

ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦のみりおのレビュー・感想・評価

3.9
95thアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品✨
これは圧巻の映像の連続…
溶岩を持ってお手玉にしてる人初めて観た😳

1991年に長崎の雲仙普賢岳で火砕流に巻き込まれて亡くなった火山研究家のご夫妻、カティアとモーリスが撮りためた研究映像を集めたドキュメンタリー作品。
2人がキラキラした目で火口を眺める様子を見ると、火山に魅せられ、もはやどれほど火口に近づけるかを楽しんでいるかのように見える。
防火服すら着ない2人の背後で、身長の何倍もある溶岩の塊が爆発していて、観ているこっちが目を覆ってしまう。

けれど、だからこそ残された映像は本当に貴重。
海底から溶岩が噴き出し、噴き出した瞬間に冷やされてそのまま粘土のようになる瞬間は初めて観た。
地球の地盤は、マグマが噴き出したことによってできているんだと、改めて気付かされる。
そして岩の隙間を川のように流れる溶岩の速さと輝きと、なぜかそこから感じる生命力のようなもの…
たしかにこれは生で観たら魅了されてしまうのかもしれない。

そして後半に語られる、赤い火山と灰色の火山。
プレートが離れたことで地球内部の赤いマグマが噴き出す火山は、見た目に反してあまり危険ではなく、むしろ何の予兆もなく爆発を起こす灰色の火山の方が危険なんだそう。
灰色の火山は、プレートが沈み込むことで引き起こされるため、いきなり導火線に火がついた爆弾のように破裂し、時速1000km以上のスピードで流れる火砕流を引き起こし、周辺数十kmを破壊する。
そんな灰色の火山を、彼らは"殺人火山"と呼んでいた。
夫妻の友人が亡くなったセントヘレンズ山の噴火は、広島の原発25,000発分の威力で周辺を破壊したというから、灰色の火山の危険性がよくわかる。

灰色の火山の研究はどれほどすすんでも、その予測や防災が難しい分野だそうだ。
噴火の規模やトリガーは、いざ起こるまでわからない。
では火山学者はなぜそんな危険が予測できないエリアに足を踏み入れるのか…
それは、火山の噴火による被害を最小限に留めたいという想いがあるからだ。
噴火予兆のある火山の周辺住民に警告を出すよう国に要求し、コストの問題で断られたカティアは怒る。
「19世紀までは情報不足で、天災によりたくさんの人が亡くなっていた。20世紀は技術も進んで情報があるのに、どうして同じことを繰り返すの?」と。

その怒りを胸に、「多くの人に火山の危険性を正しく伝えるには映画を作るしかない」と決意した2人は、美しいマグマを眺めるためではなく、危険な噴火を映像に収めるために、火山へ赴くようになる。
彼らが撮った映像は、確実に各国政府を動かし始めていく。
そんな矢先、雲仙普賢岳で火砕流をフィルムに収めようとしている2人は、それに飲み込まれた。
飲み込まれるその時まで並びあって同じ方向を見つめていた夫婦のおかげで、この30年救われた人はどれほどいるのだろうか。
その勇敢な行動と信念を、この作品で知ることができてよかった。
みりお

みりお