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ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦のRenのレビュー・感想・評価

2.5
【クラフト夫妻】フランスの火山学者・地球科学者で、火山の写真撮影と映画撮影のパイオニアとして知られる。その価値は世界的に評価されていたが、1991年、日本の雲仙岳の調査中に火砕流に巻き込まれて亡くなった。生涯で足を運んで調査した火山の数は184に及ぶという。
(Wikipediaより)

勝手に現代の話だと思って観始めたので、彼らが30年以上も前に亡くなっていたと分かり面食らってしまった。そういうタイプのドキュメンタリーだったのか。2023年のアカデミー賞にノミネートされた作品で一時は受賞可能性も囁かれていたが、個人的にはどうしてもハマりきれなかった。

火山という題材は面白い。うねるマグマや噴火の迫力など、目に見えて分かりやすい脅威はとても映像作品との相性が良く映画的だと思った。天災なので不謹慎とは分かりつつどうしたって面白い。ずっと見ていられる。

夫婦が学者として日々奔走しながらも、自らをメディア出演に積極的なタレントとして自覚していた点も面白かった。日本にもたくさんいる、学者/研究者/専門家という肩書きでありながらほぼテレビタレントじゃない?と思ってしまう人たちの生態そのものを見られたような感覚。自分たちはタレントとしてしか認識していなかった人々の、専門家として世界に貢献してきた一面。でも映画の作りとして学術的な観点は薄いので、どうしても好奇心第一のクレイジーな夫婦という視点が勝つ。学者タレントの半生ドキュメント。

でも全ては過去の話だ。過去の映像を収集し再編する構成のドキュメンタリーは、資料映像的な側面が強まってしまってダイナミズムに欠ける気がどうしてもする。

個人的にドキュメンタリー映画は、基本的には現代の問題や事件を題材にしたほうが映えると思う。現在進行形で事件が起こり、予期せぬものを捉えてしまうかもしれないがそれでもカメラを回すことへの緊迫感が欲しい。使いたい資料を選択できる今作のような構成ではそのスリルは得られない。
昔の事件に踏み込んでいくタイプの良ドキュメンタリーもあるが、それもやはり現代の人間が禁忌や脅威に踏み込んでいるという前提があるからこそ面白い。

過去のアカデミー賞で言うと、ドキュメンタリー映画は『イカロス』や『フリーソロ』のような、目の前の事象を命懸けで記録に収めるタイプのほうが興味が持続する。『サマー・オブ・ソウル ~』も過去の話だが、あれは「そもそも、過去の封印された映像が今公開されることにドラマがある」「音楽のライブ映像なので単純に見ていて高揚感がある」とプラス面が多かったので好きだった。

個人的なドキュメンタリー論になってしまったが、そういうことでイマイチ高揚できず終いだった。繰り返すが自然の脅威を捉えた映像は凄いし、ダメな映画ではない。自分の欲しかったものではなかった。
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