朝田

殺しの分け前/ポイント・ブランクの朝田のレビュー・感想・評価

-
仲間に裏切られ、死んだと思われた男が実は生きており、復讐のため彷徨うという基本的なプロットはシンプル。だが過去と現在を無軌道に繋ぐ編集と奇妙な音使いによって悪夢的な空気感が全編を覆う。更に初期黒沢清作品における哀川翔の如く無表情に暴力を発動させるリーマーヴィンの佇まいが悪夢感を倍増させる。彼が妻の口をふさぎながら銃を放つシーンでは唐突にスローモーションが用いられたり、運転席から助手席に回り込むシーンではいきなり主観ショットが導入されたりと意表を突く演出の連続。終始どんな画面が来るか予想できない状態が続き極めてスリリング。ラジオからの放送を反響させたり、リーマーヴィンが歩く音をカットが切り替わっても流され続けるといった音使いの奇妙さもまた混沌とした作劇に加担している。こうしたトリッキーな語り口の映画というのは、しばしばストーリーテリングにだけ力がこもり映画として物足りない印象を残すことが多い。しかし今作に限って言えばクラブの舞台裏でリーマーヴィンが唐突に殴りかかる様や、アンジーディッキンソンがマーヴィンに掴みかかる様をワンカットで見せ突発的な暴力を生々しく捉えている。単なるムード重視の作品ではなくジャンル映画としての旨味がしっかりとある辺りも最高だった。傑作。
朝田

朝田