AB型の末っ子

シュヴァリエのAB型の末っ子のレビュー・感想・評価

シュヴァリエ(2022年製作の映画)
3.9
中世のこの時代から黒人差別があったとは…

幼少期から、フランスの名門校でヴァイオリンの腕を磨き続け、いつしか剣術まで極めたジョセフは、マリー・アントワネット直々に「シュヴァリエ」の号を受ける。
モーツァルトを恥かかせる程のヴァイオリンの才能を持ち、貴族たちの人気をどんどん集めていくわけだが、永遠には続かない。

印象的だったのは、フランス人の父が死に、奴隷だった母親がフランスにいる自分のもとに送られ、ともに生活することになる。時間が経つと、母はフランスにいる他の黒人たちとジョセフの家で集まり楽しく会話をしている。ジョセフは知らぬ彼らの母国語で…。

幼くして父にフランスに連れてこられたジョセフは、優秀なフランス人として育てられてきた。
しかし、周りのフランス人からはいくら優秀でも、あくまでも「黒人」、一方、母とその周りの黒人たちからは「フランス人みたい」と言われてしまう。
ジョセフにとって「音楽で成功すること」以外に居場所が無かったというのを強く感じた…。

その後、徹底的に失墜したジョセフを母がフランスの黒人コミュニティに連れて行くシーンは、本当に胸が熱くなった。そこでジョセフは悟る。
ジョセフの居場所は「音楽で成功すること」ではなく「音楽」そのものであると。
それを母はずっと分かっていたのだろうな…というのもまたぐっと来る。

音楽も含め、中世の世界観の再現度が素晴らしい。ジョセフを演じたケルビン・ハリソン・ジュニアの孤独を内に抱える成功者の素晴らしい演技もさることながら、サマラ・ウィーヴィングやルーシー・ボイントンなど芸術と富の中心にいながら男社会で苦しみながら生き抜く美しい女性たち、そしてジョセフの母親の演技も最高だった。
何と言っても、マートン・ソーカス演じる侯爵が怖すぎた…レ・ミゼの前半の方のラッセル・クロウを思い出させるような演技だった。

コロナ禍明ける前というのもあり劇場公開は無かったと思うが…映画館で観たかったなぁ…。