シズヲ

ヒトラーのための虐殺会議のシズヲのレビュー・感想・評価

ヒトラーのための虐殺会議(2022年製作の映画)
3.8
1942年のドイツ・ベルリンにて“ユダヤ人問題の最終的解決”のために開かれたヴァンゼー会議。本作は親衛隊のアドルフ・アイヒマンによる議事録に基づき、虐殺計画の会議について克明に描かれている。

内容の大半が文字通りに会議によって構成されている。劇伴や過剰な演技は一切介在せず、ひたすら淡々とした演出で会話劇が繰り広げられていく潔さ。潔すぎて絵面的に単調なきらいもあるものの、それ故に会議の無機質な異常性が際立っている。ユダヤ人処分という非人道的な行為は最早規定事項として当然に処理され、寧ろその裏に隠れる利権争いや所轄の奪い合いがちらつく。冒頭でも“腹の探り合い”として言及されるように、親衛隊や官僚の間に漂う微妙な緊張感が随所で滲み出ている。要所要所で冗談やユーモアを交えているのが却って不気味で恐ろしい。

肝心のユダヤ人虐殺に関してはコストや労力などの面で淡々と語られる。強制収容人数の限界とそれに伴う押し付け合い、数十万人の抹殺に掛かる手間暇、連行のための交通網、兵士や国民への心理的影響、ユダヤ混血の人種的定義……。「いかに費用を抑えて実行するのか」「いかに自分達の利権を割り込ませるか」「いかに自分達の負担を減らすか」など各々の思惑がちらつく中、民族浄化自体は“総統”の意向のままに進む。悪名高き虐殺の遂行へと進む様子が黙々と描かれていくことの悍ましさ。比較的まともそうな意見を言っている官僚さえも結局は人道を踏み込えていく。

此処で描かれる“議論”とは意見の交換ではなく、既に決まりきった事柄の補完と権力争いを行うための話し合いでしかない。虐殺についての会議を終えた後は「良いクラブがある」として、何事もなく部下を気さくに酒へと誘う。人道も良識も当たり前のように軽視された組織の姿が冷淡に横たわる。
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