ペコリンゴ

ヒトラーのための虐殺会議のペコリンゴのレビュー・感想・評価

ヒトラーのための虐殺会議(2022年製作の映画)
4.0
記録。
1942年1月20日 ヴァンゼーにて

ドイツ・ベルリンのヴァンゼー湖畔にある邸宅にて開催された”ヴァンゼー会議”を当時の議事録に基づいて映像化した歴史映画。

会議の主催はヨーロッパのユダヤ人迫害における中心的人物、ラインハルト・ハイドリヒ。アジェンダは”ユダヤ人問題の最終的解決”。すなわち1,100万と試算された全ユダヤ人種の根絶を意味する。

15名の高官+秘書1名による、人類史上稀に見る悪夢のような会議。80年もの時を経て蘇ったそれを今我々は目撃するのだ。

男たちが部屋に集い、時に休憩を挟みながら、議論の末に結論を出して解散していく。

構造としては映画史に燦然と輝く傑作『十二人の怒れる男』と全く同じである一方で、この映画で描かれるのは、如何にも官僚ライクに繰り広げられる虐殺の効率化についての議論。

そこには忖度や保身こそあれど、決定的に道徳観や想像力が欠如している。観客はまるで会議に出席している感覚になった所で、決して是正出来やしない。

何より恐ろしいのは、あの結論を導き出すのが彼らにとって本気の大義であったであろう事。

事実、90分間の議論を終えて解散していく男たちは満足気。これがホロコーストの加速が決定づけられた瞬間か。彼らの外見が鬼か悪魔であったならまだ良かったかもしれない。人である事が悍ましい。

最終的に600万人の生命が不条理に奪われた事実がテロップ表示され、無音のエンドクレジットへ。

直接的に凄惨な映像など皆無である本作。
反面、これほどまでに寒気のする終幕の仕方を僕は他に知らない。

決して繰り返してはいけないはずなのに、一部の人類は今もなお、無闇に憎み、戦い、殺し合っている。

この映画のような事が昔話などではないと、人はいつまで証明し続けるのか。