橋本

ヒトラーのための虐殺会議の橋本のレビュー・感想・評価

ヒトラーのための虐殺会議(2022年製作の映画)
5.0
 ここで、注目すべきは Evakuierung(エファクイールング)―疎開という意味の名詞―あるいはevakuieren(エファクイーレン)―疎開させる、避難させるという動詞(格変化する)―という語なんです。つまりは、ユダヤ人問題の最終的解決―genocideを意味する―を隠喩的に表したこの言葉こそがナチのユダヤ人問題に対するクソッタレな思想を表現している。
 Evakuierungの意味は、辞書的な意味を持たない抹殺という表現としてこの映画の登場人物たち―つまりはナチ体制に生きる政府高官や人々―に理解されているのである。幸いにも日本語で読める本として芝健介『ヒトラー』(岩波新書)や同氏の『ホロコースト』(中公新書)によって、ナチ―ここには政府の人間以外にも市井の人々も含まれる―がどのようにユダヤ人を認識し、どのように非人間化していたのかを読んで学ぶことができる。
 本作では、ナチの使うEvakuierungが持つ別の意味を非常に残酷的に視聴者は理解することができるだろう。そして、ユダヤ人が人間でないものとして、つまり書類上の数や非人間化された無機質な「モノ」として扱われていることを視聴者は知るであろう。この点を気がついてない者は愚かで救いようがない。
 ヴァンゼー会議の再現―ある意味で虚構(フィクション)―を通して、現代に生きる我々は、ナチという組織あるいは思想、そしてその思想のもとに生きる一般人の考え方を知ることができる。現代でもよくある、個人の生き様や思いを取捨して、数や統計で物事を考えていった結果―つまりは官僚的な考え方や、人の思いなんて知るもんか、客観的なデータや数が信頼できるんだというような         エビデンス重視など―こうなるのである。
 ナチというものがどのようなものであったかを知るのに最適な映画である。
橋本

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