小原ブラス

正欲の小原ブラスのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.3
原作を何度も読んでいるから、評価が難しい。でも間違いなく傑作。

原作にあるかなり鋭利な角を全部とってうまく丸めてくれた感じ。「ああ、あの言葉もカットかあ」と思いながら見ているので、原作にあるエグ味が物足りないと思ってしまう。でも、原作ファンに絶賛される映画って万人受けしないことが多いから、このくらい丸くて正解。

ラストの桐生夏月への聞き取り調査シーンは皮肉が効いてて最高!

あと、SEXを知らない2人が服を着たまま試してみるシーン。普通のSEXシーンより妙なエロさがあった。

==原作にある深掘りしてほしかった内容==

「多様性」という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、があると感じています。自分と違う存在を認めよう。他人と違う自分でも胸を張ろう。自分らしさに対して堂々としていよう。生まれ持ったものでジャッジされるなんておかしい。清々しいほどのおめでたさでキラキラしている言葉です。これらは結局、マイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない言葉であり、話者が想像しうる“自分と違う“、にしか向けられていない言葉です。想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。そんな人たちがよく使う言葉たちです。


男は集団になればなるほど、より“男“、になる。男であることから降りるなんて許さないという視線が、お互いを牽制すべく巧みに行き交うようになる。

映画やドラマでは若い女子同士の関係を陰湿に描くものも多いが、二十歳を超えても尚異物を排除する力が強いのは圧倒的に男子のほうだ。男は、男であることから降りようとする男を許さない。嫌うでもなくハブるでもなく、許さないのだ。


この世界にはきっと、二つの進路がある。ひとつは、世の中にある性的な感情を可能な限りすべて見つけ出そうとする方向。規制する側の人間ができるだけ視野を広げ、“性的なこと“に当てはまる事象を限界まで掘り出し、一つずつに規制をかけていき、誰かが嫌な気持ちを抱く可能性を極力摘んでいく方向。
もうひとつは、自分の視野が究極的に狭いことを各々が認め、自分では想像できないことだらけの、そもそも端から誰にもジャッジなんてできない世界をどう生きていくかを探る方向。いつだって誰だって、誰かにとっての“性的なこと”の中で生きているという前提のもと、歩みを進める方向。

【愚痴】
男女の性欲はもちろん、男同士女同士の性欲ももはやマジョリティであり多数派だ。多様性ってどこまで許されるのだろうか。という真剣なテーマで真面目な映像が流れる最中、映画館の1つ前の席の男女カップルがずっとチューチューとキスをしまくりあげてて、まじでこいつらが1番場めでたいわ!いや、待てよ彼らは映画館で人に見られる場所でキスをすることがフェチでありそれが性欲なのかもしれない?私この多様性は許さないよ!映画館はキスする場所じゃないと思うの。手を繋ぐぐらいで我慢して!!
小原ブラス

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