ゆず塩

正欲のゆず塩のネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【感想】
原作未読です。
感想を考えるのが楽しい気がする映画。
ザ・ピロウズの『ストレンジカメレオン』を思い出した。

夏月と佐々木がどういった人なのかわかるまでが結構、退屈とまではいわなくとも何に注意して見ればいいのか分からなかったです。
夏月と佐々木が合流してからは、苦しみから解放されたようで楽しかったかな。あと、何考えているのか分かるような気がする。分かったような気になってはいけないのだろうけれど。

あと、「セックスをしてみたい」という夏月の言葉から始まった模擬的なセックス(?)シーン。あのシーンのセリフは、「性欲ってみんな気持ち悪いよね」って感情を上手く言語化してて。ハッとさせられました。性欲を気持ち悪と思っていたの、自分だけじゃなかったのか、って気持ちです。はい。

夏月と佐々木が合流するまでが大体映画開始1時間くらいでしたかね? そこまで見たときは「まだ1時間か」と絶望してしまったけれど、後半の1時間は結構あっというまだったな。
前半1時間は、どういった思考の持ち主かわからないまま、居心地が悪い感じがずっと続いていて。それが大変だった。嫌なことが起きているのはなんとなく理解できるけど、原因が分からないから、漠然と見ているだけな感じでしたね。夏月もほとんど喋らないし。

小説だと前半どんな感じなんだろう。私は映像だとどうしても興味が持ちづらかったけど。おもしろいのかな? というか、夏月の秘密がわかるのってどのタイミングなんだろう。

あ、ちょっと待った。私は、夏月と佐々木が合流するまで二人の性的嗜好が分かってなかったけれど、普通どうなんだろう? 察しが良い人って夏月の最初の登場でわかったりするの? 無理だと信じたい。
同性愛者かもしれない、っていう程度は想像してたけど。それはミスリードで。諸橋が一番そのミスリードが顕著だったかな。

夏月と佐々木、それに諸橋は、人と違う性的趣向をもっている。それによって苦しんでいるけれど、具体的ではないんだよね。
性的趣向が特殊だから生きづらい、ということって本当なのか? 何というかな、たとえば「同性愛者だから人から殴られたり罵倒される」、っていうのは生きづらいのが具体的にわかるのだけど。特殊な性的趣向だから生きづらいというのは、……映画で具体的に表現できなかったのでは?
「そんな性的趣向の人間いるわけない」っていう否定をされる場面があったが、そうそうないような。それこそ、メディアとかにそうした人間が出ないと、叩かれもしないというか。
他にある生きづらそうなシーンも、他人から「結婚しないの?」って言われる程度というか。なんか特殊な性的趣向の生きづらさが、同性愛などとあまり変わらないような気がしました。というか、普通の人でも「結婚しないの?」は嫌だったりするし。
何が言いたいのかというと、夏月たちの生きづらさをもっと感じたかったということです。できれば目新しい視点で。

生きづらさを一番具体的に表現していたのは、出来ていたのは寺井一家ですかね。男の子が生きづらさに対して抗っているのが良い。
稲垣吾郎演じる啓喜は、基本嫌な夫なのだが。料理も出て来たの食べるだけだし、徹底的にダメな奴に見えるけれど。私は啓喜の拒絶も分かるから、妻の由美の反応はやや過剰に感じたり。
啓喜が、この物語で悪者なのは明らかである。正論というか、心無い言葉をぶつける啓喜は間違っているのだろう。でも、それが啓喜なんだよ! って気もする。……普段みんなそれはわかってるのか。

面白いのは、私自身も含めて、なんで人って自分を理解してほしいと思うのだろう? 夏月とか佐々木って、たぶん自分を理解してもらえないから苦しんでいる(理解してもらえるとも思ってないのかもしれないが。そこは、わからない)。それか、人と違うから、人と違う違和感をいつも感じているから苦しんでいる。じゃ、なんで人と違うことがそんなに苦しいのだろうか?
啓喜みたいな人間が近くにいたら、確かに苦しい。それは、否定されるから。「自分のような価値観の人間がいることがおかしい」、「バグである」、と否定されたような気持になるから。なるほど、つまり存在を否定されるから苦しい、のかもしれない。それに対する自己防衛策は、「鈍感になって、気にしないこと」……しかないけど。それが出来ない人は、ずっと苦しいのか。身内とかにいるとずっと否定され続けるし。(ChatGPTに聞いたら『自己防衛の方法として、自己受容や自己理解を深めること、同じ価値観を持つ人々との繋がりを求めることなど、対処法はいくつか存在します。』と言われた)
まぁ、「存在を否定されることが苦しい」ってのも言葉にするとなかなか特殊な気がするが……。何が精神的な傷をあたえるのか、って難しい。

……自己受容や自己理解を深める、ってなんか自己啓発的だな。

以上、なんだか色々考える映画でした。
水に性的欲求を感じる、という視点はなかなか特殊で面白かったです。
ゆず塩

ゆず塩