脳みそ映画記録

正欲の脳みそ映画記録のレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
2.7
 日常に溢れている情報は明日死なない人のためのものだとか云々とかの中二感が実に朝井リョウらしいですよね。

 人と違う、普通になれないって誰でも大なり小なり抱えていて大多数の平均的な人間は存在しないんですよ。だから普通じゃないことは普通なんですよね。実は。
 誰かの普通は誰かの普通じゃないっていうのも別に普通。

 だから、無意識の加害性ってどこにでも孕んでいてそんなのどうしようもないと思うんですよ。
 『はじめてのおつかい』をかわいいとみる人もいれば、それがプレッシャーに感じる人もいるでしょう。
 婚活の案内をみて興味をいだく人もいれば、嫌な気持ちになる人もいる。

 いつもひとりでいてかわいそうだからと夏月に話しかけに行く世話焼きな人が劇中に出てきますが、あれが夏月にとっては辛いわけですよ。「齢をとってから出産して子育てするのはたいへんよ!今は気楽かもしれないけど後が大変よ!」なんて大きなお世話なのも甚だしいしけど、それが攻撃になっていることなんて気づきもしないのですよ。それで堪りかねて拒絶すると「親切で話してあげてるのになによ!」となるわけです。

 たぶん誰でもこんなシチュエーションはあるんじゃないでしょうか。もうこれを回避することは不可能で、一生誰とも関わらず無人島で暮らすくらいしか回避できないでしょうね。

 きっと、自分も誰かを無意識に傷つけたことがあるんでしょう。だから、なるべく誰も傷つけたくないので自分の言動にものすごく気をつけて生活していたことがあるのですが、「このタイミングで話しかけると不愉快にさせるのではないか」とか、「逆に話しかけないと嫌な気持ちにさせるだろうか」とか考えると本当に何もできなくなっていました。 


 最近は傷つけるのも傷つくのも回避不可能であることを悟ったので考えすぎるのは意識してやめることにしました。だってきっとそれが普通なんですから。
 本当は皆がもう少し相手の事を考えて言動を選択すれば争いごとは減るとは思いますが、考えた相手の事が本当に正しいとは限らないし、考えて行動したことこそ間違いだったなんてこともあり得るでしょう。考えることは必要だけど傷つけないことは不可能なんですよ。

 だからといって全人類が無人島に引きこもることなんてできないし、傷つけることから逃げるべきでないと思うので、例え傷つけあっても「誰もひとりじゃなければいいよ。」って本当に思います。